楽しく強い、卒“スポ根”で日本一3回 強豪チームを変えた「保護者アンケート」

多賀少年野球クラブ・辻正人監督【写真:川村虎大】

多賀少年野球クラブの辻正人監督が指導者講習会で説いた「アンケート」の勧め

滋賀県多賀町で活動する多賀少年野球クラブは、楽天の則本昂大投手を育て、2018年から2年連続で高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会「マクドナルド・トーナメント」を制すなど、3度の日本一に輝いた強豪チームだ。監督の辻正人氏が掲げているのは、卒“スポ根”。20日に東京・足立区にある室内練習場「フィールドフォースボールパーク」で行われた指導者講習会に招かれ、説いたのは「保護者アンケート」の勧めだ。

この講習会は「楽しくて強いチームを作るためにどうするべきか」というテーマで行われた。そこで辻監督が説いたのが怒声や罵声、強制なしの卒・スポ根野球だ。ただ一方で「指導者はどうしても自分を正当化してしまうんですよね」とも。経験則に頼り、自分の指導を変えられない指導者が多いのだという。

2000年以降、毎年のように全国大会に出場しているが、以前は辻監督も「変えられない」指導者の1人だった。怒声罵声は当たり前の“スポ根野球”で日本一を目指していた。指導法を改めるきっかけになったのは、2017年に保護者から取ったアンケートだった。

自らも野球を学び、練習量も増やし、徹底的に子どもたちに野球を叩きこんできたにもかかわらず、全国ではあと1歩、優勝に届かない。「どうしてこれだけやっているのに勝てないんだろう」という悔しさと苦しさがあった。2017年もマクドナルド・トーナメントで1回戦負け。悩みに悩んだ挙句、アンケートにヒントを求めた。

「それでも、どこか驕りがあったんでしょうね。優勝はできなくても全国大会には毎年出ていたので『このままでいいですよ』とか、そういう言葉が来ると思っていたんです」

厳しい言葉が並んだ保護者アンケートが変わるきっかけに

自分の指導を正当化して欲しい思いもあったが、保護者の声は全く違った。「試合は楽しくというのに、なぜこんな厳しい練習をしているのか」「17時練習終了と書いてあるのに、なぜ17時10分に終わるのか」。厳しい言葉の連続に、自分中心の独りよがりな指導だったと気が付いた。

「ハッとしましたね。それで吹っ切れたところもあります。逆に保護者の意見を全て聞いてやろうって思ったんです」。それからは時間きっかりに練習を終了、雨天中止は1週間前に決定した。怒声罵声をやめ、保護者の負担も減らした。一方で、「このままでいい」「変えて全国大会に行けなかったらどうすんだ」と言いに来る保護者もいた。両方の意見をまとめるには、結果しかない。辻監督は「全国になら行かせてやる」と言い切り、自らを追い込んだ。

勝つために導入したのは、スポ根とは正反対の効率化だった。子どもたちがボールに触れる練習を増やすため、大量購入に踏み切った。また座学を通じて、子どもたちが自らの役割を理解するチーム作りを進め、強制などしなくてもいい環境を作った。そしてチームは2018年、ノーサイン野球でマクドナルド・トーナメント初優勝を果たす。

辻監督は、保護者アンケートというきっかけで1度、自分の指導を捨てた。そこで変われたからこそ、大きな成果を得ることができた。ただ“スポ根”野球でも、好成績が出ることは稀にあり、「どこかでその経験が残っている指導者が、(スポ根野球から)抜け出せないんだと思います」と、少年野球界の「変われない」現状を憂えている。「アンケート、やってみるといいですよ」。子どもたちを導く指導者たちに、0からのスタートを説いた。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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