中日元投手コーチが感じた大野雄大の成長 五輪ブルペン待機の経験で若手も“進化”

近鉄、巨人、横浜で活躍した阿波野秀幸氏【写真:小林靖】

投手コーチとして手腕を発揮、中日ではチーム防御率が劇的改善

2000年を最後に14年の現役生活に幕を下ろし、その後は指導者、解説者としてのキャリアを歩む阿波野秀幸氏。指導者としては、巨人で通算12シーズン、横浜で1シーズン、中日で3シーズン、そして社会人の住友金属鹿島で5シーズン、投手コーチを務めた。

投手コーチとしての手腕は高く評価されており、特に2019年から昨季終了までユニホームを着た中日では在任中にチーム防御率が大幅に改善。2018年はチーム防御率4.36だったが、2019年には3.72、2020年には3.84、そして昨季は3.22で12球団トップを飾った。

この3シーズンでエースとしての頼もしさを身につけたのが、阿波野氏と同じ左腕・大野雄大だろう。2013年から3季連続で2桁勝利を飾るも、その後は伸び悩み、2018年は1軍登板6試合で防御率は8点台。そこから阿波野氏に指導を仰ぎ、翌年には最優秀防御率、さらに2020年には最優秀防御率と最多奪三振、さらには沢村賞を獲得するまでになった。大野雄が本来持つ才能を引き出した阿波野氏は、昨夏に侍ジャパンの一員としてオリンピックを戦った経験が、大野雄をさらに成長させたと考えている。

「大野雄大は自チームでは不動のエースという存在ですが、侍ジャパンではブルペンメンバーの1人で、場合によっては先発もあるという難しい立場でした。もし自チームで同じことが起きたら不満が態度に表れたかもしれないし、そうなって当然だとも思います。でも、日の丸を背負うということは、自分が思うことではなく、求められることに応えなければいけない。チームに戻ってきてから練習する姿を見ると、それを学んで帰ってきたのかなと思います」

大野雄は準々決勝の米国戦で、1点を追う9回に6番手としてマウンドに上がり無失点。わずか9球だったが、試合の流れを引き寄せる重要な役割を果たした。阿波野氏は「ほとんど出番はなかったですし、難しかったと思います。でも、チームを盛り上げる役割に徹したり、よくやりましたよ。ああいう経験がベテランになると生きてくる」と成長に目を細める。

エースが変われば、後を続く若手たちにも少なからず影響はある。「昨シーズンは柳(裕也)が成績でチームを引っ張りましたが、大野の姿を見ながら吸収していったんじゃないかと思います。小笠原(慎之介)もそうだと思いますよ」。それぞれが見せるであろう成長が、今から楽しみで仕方がない。

中日・大野雄大【写真:荒川祐史】

指導者として新たな挑戦にも意欲的「トライしてみるチャンスかな」

今年は現場を離れ、解説者として野球と接することになるが、ピッチングを極めたいという探究心は持ち続けたまま。「ソフトボールで投げるチェンジアップやライズボールを上手で投げられないものか、と。野球は技術的にかなり限界まで来ているような気がしているので、あの極端にオフスピードになるボールや浮き上がるボール、あそこにヒントがあるような気がするんですよね」と話す様子は、どことなく楽しそうだ。

先日は縁あって、この春から高校に進む中学3年生たちとキャッチボールをする機会があったという。阿波野氏は小学6年生や中学3年生がチームを引退してから、4月に新チームに加わるまでの期間をどのように過ごすかが、その後に大きな影響を与えると考えている。

「この時期は大事ですよ。ここで差がつくと思います。一緒にキャッチボールをした中学3年生に伝えましたが、高校に入学して1年目は体力作りに励もうなんて言っている間に、翌年にはスーパー中学生が入ってきて立場が追われることもある。だから、高校1年生から試合に出ることを目指して、今から練習をしておくのはいいことだよ、と。試合に出られなかったら、楽しくないですから」

侍ジャパンでは2013年からトップチームを筆頭にU-12代表まで全世代を体系化し、若い世代から国際大会を経験させるなど育成面にも力を入れている。コロナ禍以前は各地で野球教室などを開催していたが、阿波野氏はアカデミーのような形式でじっくりと育てるシステムがあっても面白いのではないかという。

「仲間意識も生まれるでしょうし、幼い頃から侍ジャパンとして自信をつけておけば、大人になって日の丸を背負って戦う時の重圧が少し軽くなるでしょうね。日の丸の重みはつける人が勝手に感じているものかもしれませんが(笑)。幼い頃に練習することも大事だけど、試合で得られる成功体験が成長を後押ししてくれる。そういう環境を整えて上げられるといいですよね」

これまでは主にプロ、あるいは社会人を指導してきた阿波野氏だが、今後はアンダー世代の子どもたちの指導にも挑戦してみたいという。

「これまでの自分のキャリアの中にないものは、トライしてみるチャンスかなと思います」

確固たるキャリアを積み上げてもなお、野球人としてさらに幅を深みを増していこうと意欲的な阿波野氏。次はどんなチャレンジに乗り出すのか楽しみだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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