森良太 - ソロプロジェクトで歩み始めた森良太、初アルバムリリース後のバンド編成でのライブを見逃すな!

自分のやりたいことはバシッと決まった、“曲を作って歌っていく”ことだと

──アルバム制作を終えて発売を待つばかりで、今はひと息ついているのでは?

森:いや、ずっと制作してますね。別のこと、次のことも考えつつ、家でずっと曲を作ってました。それしかやることがないんで(笑)。

──いやいや、そんなことはないでしょう(笑)。

森:ディレクターやプロデューサーが入らなくなってセルフプロデュースになったことがこれまでのバンド時代とは違って、自分で全部完結できるし自分のやりたいようにできるのでやりやすいのと、より、(曲作りが)生活と密接になっている感じがするんですよ、書いたら書いた分だけ自分が満たされる。その比重がかなり大きくなってきているんで、書き甲斐があると言うか。

──曲作りが生活と密接になったのは単純にソロ活動になったから、ということだけではない何かがありそうな気がするのですが?

森:そうですね…20代の頃って可能性を自分に感じていていろんなことができるだろうなと思ってたんですけど、30代になって、やりたいことがバシッと決まったというのはあるかもしれないです。やっぱり、曲を作って歌っていく、ということをもっとちゃんとやりたいなぁ、と思ったので、それをちゃんとしなくちゃなという感じですね。コロナ禍っていうのは大きかったんですけど、家にいて楽器を触る時間とか考える時間も増えていくと、やっぱり音楽をやりたかったんだな、ってどんどん気づいていった感じがしますね。これしかないな、って思ったし、今の身の回りの環境も自分がいる状況もありがたいんだなぁって思ったんですよね。手助けしてくれる人たちもいるので、こんなにありがてぇことはないなぁ、と。

──そういう意味では、アルバムでも音を鳴らしてくれているバンドメンバーがいる今のこの環境の良さ、というところもあるのでは?

森:本当に。皆、メチャクチャ音楽が好きなんで。自分の味とか色とかも考えながら、且つロックバンド好きなロックミュージシャンが集まっているので、フィジカルで本当に良いものができた気がしていますね。

──そんなメンバーとの出会いも教えてください。

森:ライブ活動をしていく中で皆、10何年来のそもそも知ってる人たちなんですよ。ドラムの(田中)駿汰はブライアンのドラマーですけど、ベースの鈴村英雄とギターの渡邊剣太は2人とも尊敬するミュージシャンで。もともとライブハウスでライブしている姿を見てカッコ良いなと思ったりしてたので誘ってみよう、という感じでした。

──森さんから声をかけて今このメンバーになっているのですね。そんな4人で奏でているバンドとしての音が、とてもライブを楽しみにさせる音だとアルバムを聴きながらも感じます。森さんは、このバンドで感じる音の手応えみたいなものはいかがでしょう?

森:演奏しているときに、“そうそう、それそれ!”っていう分かってる感みたいな感じが、(音を合わせる)回を増すごとに増えてますね。やっているサウンドがソロ名義でもバンドバンドしていて結構難しいところではあるんですけど、僕が思うこういう音楽性のおいしいところって、同じメンバーで演ることによる一体感みたいなところやと思うんですよ。それがどんどん増えていけば良いな、と思っているメンバーでやっているところがあるので、手応えとしては今で結構、うん、ありますね。かなり良い音が出てるんじゃないかという感じはしてます。

──仰る通り、良い音を全11曲にしっかり詰め込んでいるとわたしが断言します(笑)。アルバム2曲目の「行為心迫」なんてもう、ベース始まりのイントロにこのスピード感で痺れますね。4人のバンドサウンドでライブで聴くのが楽しみで仕方がないです!

森:まだライブでも演ってない曲で、どうなるかな〜という感じですけど、僕も楽しみな曲ですね。うん、ライブで早く演りたいですね。ワクワクしてます。

──アルバム全曲の詞と曲が森さん名義になってますが、具体的にどのように曲作りを進めるのでしょう?

森:どの曲も僕が大枠を、精密じゃない大ざっぱな設計図ぐらいのものを作ってメンバーに渡すんですけど、それをうまいこと皆、解釈してくれて自分なりに弾いてくれてもらっている感じですね。「行為心迫」に関してはベースのリフはベーシストの英雄くんが作ってきてくれましたね。結構、普段の生活で英雄くんとはよく遊ぶんですよ。“ご飯食べに行こうや〜”みたいな感じとか、“トンカツ作りすぎたから食べに来ぇへん?”とか“鍋作ったから食う?”って誘ったりとか(笑)、家も近くてそんな感じでよく会うので、家でセッションしたりしてると曲ができちゃうみたいなことも結構あって。

──良い関係〜! 他のメンバーの方とは?

森:ギター(=渡邊)のことはハカセって呼んでるんですけど、お酒という共通の趣味があって、三度の飯よりお酒が好きってくらい飲むんで(笑)一緒に飲んだりするし、駿汰は言わずもがなで10年一緒にバンドをやってるんで。皆、そもそもが仲良いんでストレスとかも全然ないですしね。

──尊敬していたギタリストとベーシストと今や仲間としても良い関係で良い音を生み出せて、とても幸せなことですよね。

森:そうですね、本当にそれは幸せなことです。

その瞬間の感情が乗る。だから、ライブは面白い

──曲作りについてもう少し伺うと、森さんって詞が先にできるタイプ? 曲が先でしょうか?

森:どっちでもできるんですけど、曲が先っていうことが多いですね。詞が先に書くっていうことはなかなかないです。

──今回のアルバムを聴きながら、歌詞の書き方が散文的なものもあれば昭和の詩を読んでいるかのような印象を受ける曲もあってバリエーションに富んでいて、歌詞が先というタイプかなと勝手に思っていました。

森:言葉自体が、自分の中では道具でしかないんですよ。言葉というものから感情が自動的に引き出されている感じで考えているので、言葉に従って感情が自動的に再生されるっていうイメージで書いているから、曲が先にないとどういう感情を呼び出していいか分からないっていう感じがあって。だから曲が先ということが多いですね。

──なるほど。その喩えはとても面白いです。歌詞によっては句読点を使って書いているものもあったりして仮に歌詞が読み物だとしても秀逸だなと思ったんですけど、歌詞を読んだからではなくて森さんが歌うボーカルで、ちゃんと歌詞が入ってくる。森さんのボーカリストとしての素晴らしさも出ているアルバムだと感じました。

森:褒められすぎて恥ずかしくなっちゃう(笑)。歌詞に関しては、ライブ中、初見のお客さんに1曲まるまる歌詞を覚えてもらえることってまずないと思うんで、一節で良いから覚えておいて欲しいなって思いながら書いたり、歌ったりはしてますね。(たとえばライブ後にお客さん同士で会話などをしながら)“あの曲のあそこのあのフレーズ、何やっけ?”ってうろ覚えなときに、それがちゃんと出てくるかどうかっていうのはやっぱ大事なのかなとは思っていて。歌詞でもいいし曲調でもいいから、そういうのがないといけないなとは思ってますね。

──今作は歌詞だけ見ても全曲、“この一節”といった部分がわたしはあると思っています。そんなアルバムは10曲目の「青空」で終わりかなと思ったらもう1曲、「杪春の候」でラストを飾って。お!? っていう1枚のアルバムとしての展開も見事でした。

森:そうなんですよね、そこはメチャクチャ考えて悩んだんですよ。「青空」で終わるのが綺麗なんですけど、そこからもう1周聴きたいなって思ってもらえたらいいなっていうのもあって。それと「杪春の候」を1曲目にしたかった、っていうのもあるんですよ。でも、「で?」という曲が1曲目で、もう本当に、甲乙つけ難い曲順になっております(笑)。

──1月末に大阪で行なわれた『森良太バンド緊急編成ワンマン』を配信で見ましたが、アルバム曲がかなり入れ替わったセットリストでリリースツアーも一体どんな形を組んでくるのやら?

森:そうですね、本当だったらアルバム通り(の曲順)でいいんですけどね(笑)。

──逆にそのライブを見ながら、アルバムがライブではまた違った味わいで楽しめるぞという期待感も増しましたね。

森:音源自体が録りっぱなしに近いところがあって、たとえばリズムの修正とかは全然していないんですよね。エンジニアさんが最終的に音の細部にわたる部分の調節はしてくれるんですけど、リズムは動かさないというのは注意して仕上げてくれたので。結構アルバム自体がライブっぽいっちゃあライブっぽい仕上がりではあるんですけど、ライブでもレコーディングのテンポから外れないようにとか考えつつ、とにかく結局ライブが良くなくちゃ、という思いは皆持っているので、レコーディングのときとは違うそのときの、瞬間の感情が乗るところ。これはレコーディングのときよりもライブのほうが顕著に出ると思うので、それが面白く思ってもらえるんじゃないかな、と思ってます。

──“瞬間の感情が乗る”ライブ、とても楽しみです。

森:まずは新宿ロフトから、そして名古屋に行って大阪と3カ所です。

──そんな3カ所のツアータイトルが、アルバムタイトルも入った『イーゴお見知りおきを。』ということで。

森:ダジャレですけどね(笑)、アルバムタイトルの“EGO”は日本語(発音)だと“エゴ”ですけど、エゴっていう言葉をどう捉えているかでその人の状態が分かるかなって思ってるんですね。エゴっていう言葉を聞いたとき、どうも嫌な感じがするなぁっていう方もいると思うんですよ。でも、エゴがないと人間は生きている理由や意味すらないので。それがあること自体が人間の生きる理由なのに、それに対して“エゴ、って何か嫌だな”って思ったりしている時点でバイアスがかかって偏見があることだから、それをどれくらいフラットな気持ちで、自我とか自分のやりたいこととか、自分の中から湧き上がってくる欲求みたいなものを認められるかどうかで人生の幸福度が割と変わってくるかなと思うので。“EGO”っていう単語を耳にした人が、このアルバムを実際に聴いてどう感じるかっていうのは結構、イコールかなと俺は思っていて。このアルバムを聴いたときに持つ感想が今のあなたの状態だよ、っていうのがあって、そういう思いもあって付けたタイトルですね。欲望や欲求が人を生かしているということを認めたくない人が多い気がしてて、それを認めないとそこから先はずっと空虚な気がしてるんです。自分の自我、欲望欲求を優先して満たすことは人の本能で、それがあるからこそ生きることができてるんかなぁと。まず自分のエゴを認めるところから人のエゴも理解できて、調子が良ければ尊重することだってできる。そんなふうに思うことが最近、なんか増えて。エゴという言葉を聞いて心に浮かぶ感情を見つめることで自分の状態が分かると思うし、誰かのエゴを否定すると自分がどんどん生きにくくなっていく気がしますね。

──“エゴ=自我”というワードは分かりやすいところだとエゴサーチという言い方で使われたり、自尊心といった意味もあるし、肯定的なニュアンスで捉えない向きもありますものね。

森:“承認欲求”っていう言葉もそうですけど、それって欲求じゃなく本能のレベルで大事なことで、でもそれを茶化す風潮も世の中にあって。でもそこって大事なところじゃん、っていう話で、誰かに認めてもらうっていうのは食うとか寝るとかと同じくらいの欲求だと思うので。

──アルバムタイトルからのこのお話、特に若い世代はかなり共感すると思います。そんな方たちに新作を紐解いてもらいつつぜひライブにも来てもらいたいですし、わたしも本当に楽しみにしていますね。

森:ステージの上に立っている間にできることはもちろん全力でやるとして、そこに至るまでに、曲たちを自分自身でも何回も再解釈して、それをどういう気持ちで歌ったらいいのだろうかとか、考えながらライブをやろうと思ってます。まだライブで披露していない曲もあるので、その曲の熟成具合もどうなっているか自分でも楽しみですね。

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