中学時代は7、8番打者→プロで2012安打 田中幸雄氏が子どもの頃に取り組んだ練習

日本ハムで活躍した田中幸雄氏【写真:羽鳥慶太】

打撃強化には“引き手”の強化が効果的

将来のプロ野球選手を夢見て、日々練習を重ねている子どもも多いだろう。現役時代に日本ハムのスター選手として打点王1度、遊撃手としてゴールデングラブ賞に5度輝き、「ミスターファイターズ」と称された野球評論家・田中幸雄氏が、少年時代に取り組んだ練習法を明かしてくれた。

田中氏が勧めるのは“ボールと友達になること”だ。子どもの頃、常にボールを手にして馴染ませ、天井ギリギリを狙って投げたり、手の甲を上に向けたままスピンをかけてボールを上げる動作を日常的に繰り返した。「コントロールというのは結局、指先の感覚次第だと思います。コントロールのいい人はどんな体勢でも投げられる。フォームやボールを放す位置にこだわるのは、針の穴を通すような制球力の持ち主だけでいいと思います」と説明する。

さらに、スイングスピードなどを上げるには「普段は出せないスピードやパワーを、体に覚えさせること」が効果的。素振りの際、親や指導者にバットの先端を逆方向へ引っ張ってもらった後、パッと離してもらう。こうするとバットのヘッドが走り、「自分の力だけでは出せないスピードが出て、体がその速さを覚える」という。また、ボールを握る時の形で、利き手の人さし指と中指を逆の手のひらで押さえ、パッと離す。このトレーニングを繰り返すと、手首が強化される。

“両打ち”の練習もお勧めだという。利き腕が右で右打ちの場合、引き手となる左腕の力はどうしても弱い。「プロの強打者は引き手の力が強く、力の入れどころも分かっているから打球が飛ぶ」と田中氏。両打ちに取り組むことで、左右両方の腕をバランスよく強化することができる。田中氏の現役時代のチームメートで、日本ハムのGMを務める稲葉篤紀氏は、左投げ左打ちの強打者だったが、「よく試合前に右手だけでティー打撃を行っていた。両手で打つのと同じくらい力強かった」そうだ。

高2までは本塁打“なし”も、身体が大きくなった高3だけで30発

プロで活躍する選手の場合、小中学生時代は「4番でピッチャー」だったと思われがちだ。通算2012安打、287本塁打を放った田中氏の場合、宮崎県都城市立中郷中時代の打順は7番か8番だった。中3夏の野球部引退時の身長は162~163センチと小柄。都城高入学時には172センチになったが、当初はノーステップでコツコツ当てる打撃で、打球はセンターから右方向に限られていたそうだ。

その後も身長は伸び続け、高3時には182センチに。それに伴ってパワーもついた。ステップして踏み込んで打つことを覚えると、打球の飛距離は格段にアップ。それまで1本も打ったことがなかった本塁打を、高3の1年間で30発量産した。その年、日本ハムにドラフト3位指名されるに至った。

「飛距離が伸びたことに、自分が一番びっくりしました。あれがなかったらプロには入れていない」と苦笑する田中氏。自身の経験から「小中学生時代は成長段階ですから、その先どうなるかは誰にも分からない」と強調する。夢を諦めずに努力を重ね続ければ、思わぬ形で道が開けることもあるという見本だ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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