次世代被害に目を

 苦しみの経過をたどるカネミ油症の被害者。その多くが今最も望んでいるのは子や孫の健康と幸せではないだろうか▲被害者の子や孫に絞り健康状態を把握する初の公的な次世代調査が本年度から始まり、中間報告がまとまった。体にさまざまな不調があるという。汚染食用油を口にした被害者の胎盤や母乳などを介し、子に原因物質が移った可能性は前から指摘されていた。孫世代への影響も不安視される▲世代を超えた被害だとすれば一層重大な問題だ。しかし国や関係企業は実態を把握しようとしてこなかった。油症研究を担う全国油症治療研究班も消極的だった▲一昨年、研究班長が交代し調査が動きだした。新班長は「次世代の認定につながるような結果を出していきたい」と話した。これは救済策がない子や孫の油症認定、救済を見据えて調査を進めることを意味しており、異例の発言。一方、子や孫は、自らの体調不良と油症の関連が不明なまま暮らしており、不安を訴える機会もなかった▲新班長の問題解明への意志と次世代側の伝えたい思いがかみ合ったからこそ、調査では予想を超える388人(本県69人)が回答したのだろう▲覆い隠されてきた次世代被害に光が当たろうとしている。油症が県内外で広がり始めたのは54年前のちょうど今時分だった。(貴)

© 株式会社長崎新聞社