奥野壮(俳優) -『灰色の壁-大宮ノトーリアス-』物語の流れの中で感じたことを素直に出していきました

挑戦したい楽しみたいという気持ちの方が勝っています

――『灰色の壁-大宮ノトーリアス-(以下、灰色の壁)』は奥野(壮)さんの眼力を感じる作品でした。

奥野(壮):

ありがとうございます。

――作中ではアウトロー的な要素も持つ役柄で威圧感もあるキャラクターでしたが、実際は優しい雰囲気なので安心しました(笑)。

奥野:

安心してもらえてよかったです(笑)。

――映画初主演となる作品ですが、プレッシャーはありましたか。

奥野:

もちろんプレッシャーはありました。それだけでなく観てもらえるだろうかという不安もありました。その不安は今もありますが、挑戦したい楽しみたいという気持ちの方が勝っています。

――ポジティブな気持ちの方が強かったんですね。主演という事で陣内(孝則)さんなど先輩を引っ張っていくことになりますが。

奥野:

引っ張っていくというよりはチームの一員としてみんなで作っていくという感じでした。僕が一番年下だったので、むしろ助けていただいた形です。

――先輩というのもありますが、見た目や役柄的に厳つい人ばかりですが怖くなかったですか。

奥野:

この人たちに対峙するのかと思うと怖かったですね(笑)。現実では睨み返せないです。

――最後は組に単騎で乗り込んでいますから役とはいえ度胸がいりますよね。

奥野:

馬鹿なんですか僕には想像がつかない人物ですね、吉田正樹(以下、正樹)は。

――私の感じた吉田正樹像は暴力的なところはもちろん怖いんですが、真っ直ぐな人でもあるなと感じました。

奥野:

本当にそうです。一貫して筋の通ったことをしているので、嫌な奴男ではないです。

――刑務所内でも自分が暴行を受けている時は堪えいましたが他の人にその矛先が向いた時には知恵を対抗していましたし、服役するのも仲間に被害が及ばないためなので、その姿を観るとこれだけ真っ直ぐな人でもこっちに行ってしまうことがあるんだなとも思いました。

奥野:

真っ直ぐな人ではありますが、服役するというのは今まで暴力で支配してきたことが自身に返ってきた部分があると思います。

――そうですね。それでも、根っこはしっかりしているからこそ陣内さんが演じる杉山もそれに気づき手を差し伸べたんだと思います。杉山は正樹が落ち込んで自暴自棄なった時も見捨てずに救い上げていますから。最近ではここまで男臭いドラマというのもあまりないですね。

奥野:

少なくなっていますね。こういう題材を元に描かれる作品も少ないので、そういう意味でも新しい映画かなとも思います。

凄く楽しくて、有意義な経験

――実話を元にされた作品という事ですが。

奥野:

はい。映画なのでもちろん脚色もありますが、実際の事を元にしている部分がかなり多い作品になっています。

――そうなんですね。それでは、なおのこと役作りに力が入りますね。

奥野:

そうですね。モデルとなった吉田正樹さんご本人にお話を聞かせていただいて役を作っていきました。

――モデルの方にも実際に会われたんですね。

奥野:

吉田さんにはプロデューサーとしても本作に入っていただいています。実際にご本人に当時の気持ちをお伺いして、それを役に落とし込んでいきました。凄く楽しくて貴重で、有意義な経験ができました。

――実際の吉田さんはどんな方なんですか。

奥野:

気さくで優しいイケメンのおじさんまでした。

――吉田さんのご家族にもお会いされたのですか。

奥野:

はい。奥さんにもお会いしました。娘さんにはくるみ役でご出演をいただいています。

――時間経過がかなりある作品ですね。

奥野:

そこが一番難しかった点でした。僕は撮影当時19歳だったので、妻が居て子供が居てというのはなかなか想像しづらいところでした。正樹の過ごした時間、それによる心情・風貌・話し方の変化をイメージするのは難しかったです。

――時間経過を表現していく際に意識されたことは何ですか。

奥野:

特に意識はした事はないです。幸い物語の進む方向と撮影の進み方がほぼ同じだったので、心情も物語に沿う形でスムーズに流れに乗せることが出来ました。

――時間経過と撮影の流れがおなじだったから心情の変化にも無理が出なかったという事なんですね。そんな中でも特に後半は感情の揺れも大きかったと思いますが、その感情の波はどう作り上げられていったのでしょうか。

奥野:

過剰に役を意識して作ってという事ではないです、物語の流れの中で感じたことを素直に出していきました。

――撮影の中で安藤(光造)監督と役についてお話をされたことなどはあったのでしょうか。

奥野:

安藤監督には「全然、怖くねぇ。」と言われたので、“怖さ・強さ”を出すことは課題でした。怖さにも色んなものがあると思いますが、吉田正樹の持つ怖さとは何だろうということをずっと考えながら挑んでいました。

――実際に迫力がありました。

奥野:

本当ですか。そう感じていただけたのであれば、嬉しいです。

戦う意思を保つのはなかなか出来ることではない

――この作品は因果応報を描いている部分もあり、服役も正樹自身の身から出た錆という部分もあります。その因果が自分だけに降りかかるのであれば耐えれますが、奥さんや子供にも被害が及んでしまった点についてはどう感じられましたか。

奥野:

そうですね。7年間服役するだけでなく、家族が騙されてお金を脅し取られてというのは余りにも大きなマイナスです。正樹はそのことを知って後悔することになりましたが、それを経たからこそしっかりと更生できた部分もあると思います。そういう面で見れば服役したことがプラスに転じるきっかけにもなったと思います。

――捕まらないでいたらもっと酷いことになっていた可能性もあって、元々持っていた真っ直ぐなところも保てていなかったかもしれないですからね。灰色の壁の中にいれられたことは大きなマイナスではありましたが、そういった純粋さを守ってもらえた部分もありますね。

奥野:

そうですね。罪を精算できるきっかけという意味でも、正樹にとってマイナスだけではないと思います。

――そんな正樹を支えたさゆりさんが強い女性ですね。

奥野:

吉田さんも「この映画で奥さんが凄いんだという事を伝えたい。」と仰ってました。これだけ長い間を待っていてくれていたというのは正樹とは違う強さを感じますよね。

――待ってくれている人が居たから正樹も心が壊れずに出てこれたわけですから。

奥野:

話を聞いて、実際に演じてみて、二人の関係性は羨ましいなと思いました。さゆりさんみたいな人が僕も欲しいですね。さゆりさんはまさにヒーローで、彼女という存在が居なければ心が折れていたでしょうから一番強い人です。

――本作で奥野さんも映画初主演という壁を乗り越えられたわけですが。

奥野:

公開されていないので、まだ乗り越えてないです。いまよじ登っているところです。怖さもありますが、どんな反応が来るのか楽しみです。

――特にここを注目して欲しいという部分はありますか。

奥野:

アクションの話で言うと今までのヤンキー映画とは違うテイストのアクションなので、そこは1つの魅力だと思います。あとは、正樹の心情の変化は面白い部分だと思うので注目していただけると嬉しいです。

――最初は怖いだけでしたが物語が進むにつれて正樹はちゃんと芯がある人間だという事がわかってくるので、男の目線から観ても魅力的な人でした。

奥野:

男心をくすぐられる方ですよね。

――出所後も逃げずに最後の壁と対峙するのも凄いですよね。

奥野:

そうですね。僕なら逃げてしまいます、そこに立ち向かう精神力は凄いです。戦う意思を保つのはなかなか出来ることではないことです。

――だからこそ、さゆりさんも信じて待てたんだと思います。捕まった時点で離婚を言い渡されてもおかしくないですが、待っていてくれたという事はその芯の部分が伝わっているんだなと思いました。

奥野:

お二人ともカッコいいですよね。

“言葉の力”というものを改めて認識させられました

――役者というお仕事は次々と新しいことに挑戦されるわけですから、闘っていくお仕事だと思います。奥野さんが役者として闘っていく中で心情にしていることはありますか。

奥野:

僕は闘っているという意識はなくて、楽しんでいます。他の人の人生を生きられるものってほかにないじゃないですか。普通ではやれないことが経験出来る、自分が生きてきた人生とは違う人生に触れることが出来る、それが楽しいです。

――役者という仕事を続けている中で発見した事はありますか。

奥野:

沢山あります。今回の吉田正樹役に限らず、今まで演じてきた全ての役に影響されています。『灰色の壁』で言うと、“言葉の力”というものを改めて認識させられました。他の役を演じる中でも、その時の役に付ついて勉強していくなかで今まで知らなかったことを知れるので、常に発見があります。

――今作で感じた言葉の力という部分についてお伺いできますか。

奥野:

たった一言の影響で吉田正樹は服役することになり、人生が大きく変わり、周りの人間の人生も変えてしまいました。言葉というものの持つ力の大きさを僕自身も改めて感じる事が出来ました。皆さんにも言葉の持つ力の大きさについて改めて認識していただけたらなと思います。こういうと説教臭くなってしまいますね。無理に教訓として受け取ると考えずに映画として単純に楽しんでいただけたら嬉しいです。

――奥野さんが今まで貰った言葉の中で力をとなったものはありましたか。

奥野:

『仮面ライダージオウ』に出演していた際に生瀬勝久さんにいただいた言葉で「お芝居は生ものだから現場で生まれるものを大切にしなさい。」というものがあり、それはずっと頭の隅にあります。その言葉を受け、役を演じる中でも自然体でいる事、セリフも本当に自分が言うように言う事、ナチュラルでいるという事は常に意識しています。

――実際に本当に思っている、感情が乗っているように感じるセリフ・演技に見えました。

奥野:

ありがとうございます。

――延期を重ねて1年越しの作品がいよいよ公開となりますね。

奥野:

本当に映画公開できることを嬉しく思っています。この映画を通じて何か受け取ってもらえれば嬉しいです。

――吉田正樹の人生の夜が明けて希望を感じる事が出来た、気持ちがすっきりとした映画でした。

奥野:

ありがとうございます。希望に繋がる、力を与える作品になれば嬉しいです。

©2022「灰色の壁 大宮ノトーリアス」製作委員会

© 有限会社ルーフトップ