侵攻

 日本国憲法の前文には「国際協調主義」を高らかにうたう記述があるが、その「国際社会」には少し長めの修飾語がついている。いわく〈平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる〉国際社会▲憲法の中で「名誉ある地位を占めたい」と、私たち日本国民が宣言しているのは、そんな“現在進行形”の努力を不断に続ける国際社会であることを忘れてはならない▲もし、現実の国際社会がその方向に向かっていないとしたら-。池田香代子さんの著書「やさしいことばで日本国憲法」を監修した米国の政治学者、ダグラス・ラミス氏は「憲法前文は、政府にそのような国際社会をつくるため懸命に努力することを命じているのだ」と説いている▲緊迫が続いていたウクライナでロシア軍の侵攻が始まった。ロシアのプーチン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大に対抗する自衛措置だ-と主張している。しかし、戦争はいつだって、どこかの国の「自衛」から始まる。到底容認できない主張だ▲岸田文雄首相は、ロシアを強く非難し、現地の邦人の安全確保とさらなる情報収集に全力を挙げると述べた▲真っ先に取るべき行動としてはおそらく間違っていない。ただ、憲法はその先の努力も政府に要求している。(智)

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