長崎からも目を見張る

 その施設の名を耳にすると今もいくらか胸がざわつく。そんな人も多いだろう。1986年、旧ソ連(今のウクライナ)のチェルノブイリ原発で起きた史上最悪の事故は忘れがたい。ロシアのウクライナ侵攻で思いもよらずその施設の名を聞き、ハッとする▲その原発をロシア軍が制圧した。チェルノブイリは軍が駐留するベラルーシに近く、ウクライナの首都キエフへ攻め込むのに好都合という▲原発の敷地内にためてある放射性物質をウクライナから取り上げる狙いもあるとみられる。大事故を起こした原発を攻めの要所にするという、なりふり構わない仕業にまたも胸がざわつく▲原発事故のあと、長崎大は現地の周辺で医療を支援し、キエフの研究所とも手を取り合ってきた。長崎とつながりのあるキエフの人々の今を案じる▲かたやプーチン大統領は「ロシアは世界で最も強力な核保有国の一つ」で「攻撃すれば壊滅的な結果になる」と、核兵器の使用をちらつかせる。どうするかは私次第-と、独善の脅しが通じるわけも、許されるわけもない▲チェルノブイリの占拠といい、核使用のほのめかしといい、被爆地からもじっと目を凝らす、緊迫した局面が続く。武力で攻め入り、脅したところで何にもならないことを、国際社会が結束して分からせるしかない。(徹)

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