DeNA投手陣立て直しの“秘密兵器” 三浦監督、斎藤コーチも学んだ76歳・名伯楽の存在

ブルペンで投球練習を見つめるDeNA・小谷正勝コーチングアドバイザー【写真:小谷真弥】

ヤクルト時代の愛弟子・五十嵐亮太氏が見る小谷氏が与える影響

「横浜反撃」をスローガンに掲げ、昨季のリーグ最下位からの巻き返しを図るDeNA。恒例の沖縄・宜野湾キャンプには、就任2年目の三浦大輔監督の下、1998年の日本一を知る3人、石井琢朗野手総合コーチ、鈴木尚典打撃コーチ、斎藤隆チーフ投手コーチが新たに加わった。そしてもう1人、投手陣立て直しの“秘密兵器”として控えるのが、コーチ歴40年以上の経験を誇る小谷正勝コーチングアドバイザーだ。

国学院大から1968年に大洋に入団すると10シーズンで現役を引退。スカウトを経てコーチになると横浜大洋(横浜)、ヤクルト、巨人、ロッテで指導し、様々な投手の成長をサポートした。三浦監督や斎藤チーフ投手コーチも教え子の1人。愛弟子に請われて3年ぶりに現場復帰を果たし、キャンプ初日から投手陣にアドバイスを送る。

「ブルペンで投げる様子を投手の真後ろから見ていたり、投球間に話しかけに行ったり、小谷さん、かなり精力的に動いていましたね」

そう嬉しそうにキャンプ取材を振り返るのは、ヤクルトやソフトバンク、メジャーでも活躍した五十嵐亮太氏だ。五十嵐氏がヤクルトに入団した1998年、2軍投手コーチを務めていたのが小谷氏だった。その後、2002年を最後に小谷氏がチームを離れるまでの5年間、幾度となく投球についての教えを受けた。

「僕は技術について教えていただきました。体の使い方、つまりフォームですよね。フィジカル面でのアドバイスを多くいただきました」

小谷氏が1軍投手コーチとなった1999年、プロ2年目で1軍デビューを飾った五十嵐氏はそのまま戦力として定着。2020年を最後にユニホームを脱ぐまで、日米通算23年の長きにわたりプロのマウンドに上がった。高校からプロの門を叩いた五十嵐氏にとって、小谷氏は文字通りの恩師にあたる。

コミュニケーションを重視する小谷氏の指導スタイル

「さらに長所を伸ばしながら短所も伸ばしていこうというのが、小谷さんの指導法。それぞれにあったピッチングスタイルを提供するコーチだと思います。昔は自分の理論に当てはめようとするコーチが多かった中、選手とコミュニケーションを重ねながら、その人には合っているのかを考えてくださるコーチでした。今考えてみると、比較的新しいことをしていたのかもしれません」

自分の型にはめるのではなく、投手1人ひとりにあったスタイルを作り上げるという柔軟性と引き出しの多さがあるからこそ、76歳という大ベテランになった今でも指導のオファーが来るのだろう。選手たちも小谷氏の言葉に耳を傾け、吸収できるものはしようという積極的な姿を見せていたという。五十嵐氏は言う。

「おそらく選手にとっては、今までにない角度から見たアドバイスもあると思います。そういった小谷さんの言葉を、選手がどう受け止めてやっていくか。自分にとって今までなかった新しい風が吹いているわけです。受け止め方はもちろん、実践するかしないかは選手次第。ただ、必ず刺激にはなっていると思うので、いい方向に進めばいいと思います。監督、コーチ、選手、みんなの表情が明るかったので、チーム状況はいいはずですよ」

DeNAは昨季、12球団で唯一チーム防御率が4点台(4.15)を記録。「横浜反撃」を実現するには、投手陣の立て直しが必須条件だ。三浦監督と斎藤チーフ投手コーチは、改めて投球の原点とも言えるストレートにこだわり、第1クールでは全投手にストレートをしっかり投げきることに集中させた。基礎を大切にしたいという想いが、小谷氏へのコーチングアドバイザー就任オファーに繋がったのだろう。

昨季の日本シリーズで対決したヤクルトとオリックスは、いずれも前年リーグ最下位からの大躍進を遂げたチームだった。今季はDeNAが世間をアッと驚かせる存在となれるのか。復活のカギは投手陣が握っている。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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