<社説>泡盛「無形遺産」申請へ 世界普及へ「百年構想」を

 政府は泡盛を含む国内の「伝統的酒造り」を国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に申請する。 出荷量の低迷が続く泡盛業界にとっては久しぶりの朗報だ。県酒造組合も泡盛のさらなる普及、輸出拡大につなげる好機と捉えている。

 沖縄が誇る名酒をどうやって世界に展開するか。最大の特長である「古酒」、それを支える「仕次ぎ」の文化を発信することが重要になる。古酒は一朝一夕には育たない。100年後を見据えた泡盛文化の基盤固めへ、県民の知恵を結集する必要がある。

 国の文化審議会が挙げた無形文化遺産申請候補には、泡盛だけでなく日本酒、焼酎、みりんも含む。麹(こうじ)による発酵という共通点があり、祭礼など「酒」が日本文化に不可欠なものであるという理由だ。

 中でも泡盛は沖縄固有の黒麹菌を使うのが特長だ。黒麹菌は発酵過程で大量のクエン酸を生み出す。もろみを強い酸性に保つことで雑菌の繁殖や腐敗を避ける。高温多湿の沖縄に最適な技法なのだ。

 泡盛には「成長させる楽しみ」もある。古酒に新酒を年々一定量継ぎ足していき、古酒の味わいを半永久的に楽しむ「仕次ぎ」の文化だ。

 泡盛文化の普及・継承へ活動する山原島酒之会は「全ての家庭に古酒甕(がめ)を」と呼び掛けている。100年ともなれば親子孫の3代にわたる。単に古酒を継ぐのではなく、世代を超えた家庭の物語、絆をもつないでいく取り組みだ。

 「本物の古酒を味わいたければ沖縄に行くしかない」という状況が生まれれば、観光客誘客などさまざまな波及効果も期待できよう。

 一方で足元の危機をどう脱するかも重要な課題だ。

 県酒造組合によると、2020年の泡盛総出荷量は1万3817キロリットルで16年連続の減少、ピークだった04年(2万7688キロリットル)に比べると半減した。本紙が5年おきに実施する県民意識調査でも、最も好きな酒で泡盛は2位、11.8%にとどまり、16年調査から半減した。復帰後50年続いた酒税軽減措置も10年後の廃止が決まっている。

 零細企業が多く、収益を上げられない構造にあるのが泡盛業界の現実でもある。官民連携で県外への共同輸送など経費削減に取り組んでいるが、出荷量が増えないことには手の打ちようもない。

 かつては蔵ごとの麹があり、同じ材料、同じ製法でも異なる風味があるとされた。零細酒造所の経営安定化はそうした多様性を確保することにもなる。新カクテルの開発、消費促進イベントなど県外の泡盛ファンも巻き込んだ展開が必要となる。

 発酵学の権威、坂口謹一郎博士が論文のタイトルにしたのは「君知るや名酒泡盛」。いまや知らない人がいないくらい知名度を上げた。先人から受け継いだ泡盛文化を現代のわれわれがどう発展させるか、正念場でもある。

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