綱引きに受け身も…技術向上に繋がる“異競技トレ” 強豪女子中学硬式チームの練習法

「スルガマリンガールズ」のウォーミングアップの様子【写真:間淳】

静岡「スルガマリンガールズ」はウォーミングアップとトレーニングで90分以上費やす

静岡県で唯一の女子中学硬式野球チーム「スルガマリンガールズ」は、昨秋の全国女子中学硬式野球選手権で頂点に立った。優勝は創設10年で3度目。チームでは野球の技術を向上させるために、野球以外の競技を練習メニューに取り入れている。キャッチボールを始めるまでに、ウォーミングアップとトレーニングに1時間半以上費やすことも珍しくない。

日曜日の午前8時、スルガマリンガールズの練習がスタートする。ストレッチで体をほぐしてから、ウォーミングアップに入る。準備したのはボールと、ゴールに見立てたネット。選手たちが2つのグループに分かれて、当たり前のようにボールを蹴ってミニゲームを始めた。ウォーミングアップやトレーニングの時間が長いのはチームの特徴であり、強さの理由でもある。岩見正樹監督は意図を説明する。

「股関節の動きを意識したトレーニングとして取り入れています。ボールをつなぐには声掛けが重要ですし、パス、ドリブル、シュートと何を選択するのか判断力も磨かれます」

ボールを蹴るトレーニングは他にもある。シザースと呼ばれるボールをまたぐフェイントをしたり、ボールに細かくタッチしながら後ろ向きでドリブルをしたりする。ダッシュのメニューも横向きに走ったり、リズムを取り入れたり多岐に渡る。選手がグラブを手にしてキャッチボールを始めたのは午前9時45分。練習開始から1時間45分が経っていた。

「中学生は発展途上、色々な動きを身につけることが野球に繋がる」

土日と祝日に静岡県東部を中心に活動しているチームを初年度から指揮する岩見監督は「フィジカルが強くならないと技術は上がっていきません」と説く。特に、冬場はトレーニングを重視している。だが、飽きがくる腹筋、背筋、ウエートトレーニングを中学生が継続するのはなかなか難しい。また、体の動きのバリエーションを増やすには、野球以外の競技を取り入れることが効果的と考えている。野球以外のスポーツ、さらには綱引き、縄跳び、受け身を練習メニューに入れる時もあるという。

「両手、両足をバランス良く使う運動、後ろ向きの動きや回転は野球の守備に通ずる部分があります。中学生はまだまだ発展途上なので、色々な動きを身に付けることが結果的に野球に繋がると思っています。野球以外の競技や遊びをすると、体の動きをイメージしたりコツを考えたりするので、考える力も身に付きます」

岩見監督は練習中に細かく指示を出さない。頻繁に飛ぶ声は「理解していないなら練習はやめよう」。1時間半のウォーミングアップとトレーニングメニューも選手がつくったものに手を加え、普段から考える習慣がつくように心掛けている。プレーするのは選手であり、試合中の判断も選手がするためだ。

新チームは全国大会連覇を目指す。ライバルたちからは王者としてみられるが、成岡妃紗良(なるおか・きさら)主将は「昨年優勝できたのは3年生のおかげで、今のチームは声も出ていないし、まだまだ技術も高くないです。主将としてチームメートを引っ張っていかないと勝てないと思います」と自己評価は厳しい。同じ2年生の星谷佳穂(ほしや・かほ)外野手も「新チームは強いとは言えません。技術を上げるだけではなくて、挨拶や準備など当たり前のことをチーム全体でできるようにしたいと思います」と危機感を滲ませる。全国の厳しさを知っているからこそ、慢心は生まれない。

成長著しい時期に野球の技術を最大限に伸ばす練習の工夫。3年に満たない期間で選手が入れ替わる中学野球で、10年間に3度も全国の頂点に立つ強さには理由がある。(間淳 / Jun Aida)

早生まれの方が将来大成する? 誕生月で見るプロの傾向と少年野球で考えるべきこと

野球を始めたい…初期費用は総額いくらかかる? 専門店に聞いた“必要な用具10点”

軟式、硬式どちらにすべき? あまりに多い“中学野球”の選択肢と特徴を紹介

© 株式会社Creative2