スポーツ界にも大きな影響を与えているロシアによるウクライナへの軍事侵攻。
ウクライナの強豪シャフタールに所属する外国人選手たちは国外に脱出、イタリア人のロベルト・デゼルビ監督と彼のスタッフたちはイタリアへと帰国した。
その裏には、UEFAのアレクサンデル・チェフェリン会長の尽力があったようだ。
シャフタールのレジェンドで、現在はスポーツディレクターを務める元クロアチア代表DFダリヨ・スルナが切迫した当時の状況を明かした。
『Jutarnji.hr』によれば、まだショックを受けている様子だという彼はこう話していたそう。
ダリヨ・スルナ(シャフタールSD)
「水曜の午前4時15分に全てが起きた時、すぐに目を覚まして、何が起きているのかを理解した。
すぐに外国人たちをホテルからクラブに集めた。選手の家族だけでも50人近くのブラジル人がいた。ディナモ・キエフの外国人もホテルに来ていた。
次のステップは大使館への連絡だった。彼らの助けを一番に期待するのは当然の話だ。
大使館の人達は助けるために全力を尽くしてくれたが、選手やコーチを確実に出国させる方法は見つけられなかった」
「自分だけ車で出国する方法もあった。だが、私もイタリア人のスタッフたちもそれは断った。
ブラジル人たちを置き去りにしたくなかったからだ。
選手やその家族や子供たちを残して、自分だけ先に行くわけにはいかなった。
ブラジル人選手たちは18~20歳くらいで、まだ子供だからね。
彼らと一緒に残り、解決策を見つけなければいけなかった。
チェフェリン会長に個人的に電話をかけた。クラブは彼ら(UEFA?)といい関係にあり、私は彼に会った時に適任者だと感じていた。
もうどうにもならないと思った時、彼のことを思い出した。
『会長、助けてください。我々にはあなたが必要です』と伝えた私は途中で泣いてしまった」
「チェフェリンはすぐにあらゆることをしてくれた。それ以上かもしれない。
解決策を求めて、真夜中に電話をかけてくれたんだと思う。
彼はまるで自分の子供かのように、我々の選手や家族のために立ち上がってくれた。
彼が誰に電話したのかは分からないが、我々は常に連絡を取り合い、彼はどんなことをしてでも解決策を見つけると断言してくれた。
(会長への電話から一日半後、状況は悪化するだけなので出国したほうがいいと再度伝えられた)
車でハンガリーに向かった。ただ、チェフェリンはまだ外国人たちの問題を解決できないでいた。
私は電話をかけて、どうなっているのか、このドラマはいつ解決するのかを尋ねた。
すると、チェフェリンは解決策があると言い、選手と家族たちをウクライナから出国させると約束した。
その約束を聞き、会長とブラジル人のモラエスとで直接話をさせた。彼は英語が堪能だから。
およそ18時間後、チェフェリンから、ブラジル人と家族を列車で安全な場所に連れていくと連絡があった。
さらに、10時間後にはイタリア人たちにも国境までの列車が用意できたと連絡があった。それで、彼らは月曜朝に帰国することができた。
私もとても落ち着いた状態でハンガリーに到着することができた」
「チェフェリンにとって、小国(スロベニア)からUEFA会長の座に辿り着いたことが人生最大の出来事ではない。
その最大の功績は、彼が偉大な男であり、人々が彼を本当に必要としていたこの壮大なドラマのなかで偉大さを示したことだ。
我々はそれを絶対に忘れない。
シャフタール、ウクライナサッカー連盟、ウクライナ全体も全て善良な人達だ。
全てにおいて重要な役割を果たしたのは、ウクライナサッカー連盟のアンドリー・パヴェルコ会長だ。
常にチェフェリンを助け、独自の解決策も模索してくれた。
全ては数日間のドラマだったが、こういう状況では1秒が1時間のように感じる。
とはいえ、UEFAをチェフェリンが指揮していることをとても光栄に思う」
「我々は全ての人達の平和と希望のために祈るしかない。あらゆる面での人道的支援も。
全てのクロアチア人の皆さん、助けてくれる皆さんに感謝したい。
国のために、家のために戦っている人達がいる。
それが何を意味するのかを知っている。自分にとっては、人生で3度目の戦争体験になる。
立ち止まって降伏してはいけないことは誰もが分かっている。誰もがそれぞれのやり方で戦うべきだということも。
残念ながら、ウクライナでは大きな混乱が起きている。
人道的支援が必要な人達に届いているのかは分からない。多くの人に届けられなくても、やめてはいけない。
昔からウクライナとクロアチアの人達には大きなつながりがあり、今でもそれは続いている。
ウクライナの人達はクロアチアの人々が寄り添っていることを知っている。全世界が寄り添っていることも。
私はウクライナで素晴らしい19年間を過ごしたし、そのことを非常に嬉しく思っている。
自分にとっての第二の故郷であり、助けるためにできることは何でもやる」
モラエスはシャフタールで10番を背負う34歳のMF。彼はブラジル出身ながら、長年プレーしてきたウクライナで市民権を取得して、ウクライナ代表になった選手だ。
そのモラエスはチェフェリン会長に感謝を伝えるために、ブラジルに帰国する前にわざわざスロベニアの自宅を訪ね、ユニフォームを手渡したそう。
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なお、シャフタールのウクライナ人選手たちは国中に散らばっている状態だというが、スルナは彼らと絶えず連絡を取り合っているという。