「プーチンの戦争」真の動機とバイデンの悪辣|山岡鉄秀 なぜ全世界を敵に回してまでプーチンはウクライナ全面侵攻を決意したのか。プーチン大統領の真の動機と、バイデン大統領(民主党政権)に追随し、利用され、棄てられたウクライナの悲劇に迫る!山岡鉄秀氏の「有料メルマガ記事(2月28日発行)」を特別公開!

なぜ「ウクライナ全面侵攻」を決意したのか

ロシアの対ウクライナ軍事作戦が、まさか首都キエフまで含めた全土侵攻になるとは予想できませんでした。私が予想したのは、東部のドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国への進駐と実効支配を行い、そこから敢えて動かない戦略でした。

この2つの共和国に対し、ロシアは既に非公式に軍を駐留させていました。だから、ロシアがこれらの共和国を正式に承認して軍隊を送ると宣言しても、ホワイトハウスは「従来から非公式に行っていたことを公にしたに過ぎず、事態のエスカレーションとは見なさない。従って、これをもって次の次元の経済制裁を発動することはない」という考えを示しました。

このアメリカ政府の弱腰を大いに利用して、治安維持を名目に2つの共和国を実質的にロシアの支配下に置きながら沈黙している限り、世界の対ロシア制裁は中途半端なものにならざるを得ず、中国との関係を強化するロシアはほとんど無傷でいられるはずでした。

一方、もし、ロシアが西進してキエフ攻略まで目指すようなことをしたら、完全な侵略行為になってしまい、ロシア側にいかなる大義があろうとも、全世界を敵に回してしまいます。

また、自衛隊OBや軍事専門家が指摘するように、キエフ攻略には相当な戦力が必要で、その準備があるようには見えませんでした。つまり、物理的に厳しいということです。

したがって、突然の3方向からの全面侵攻を予測した人は専門家も含めて非常に少なかったと思います。

このような作戦は事前に時間をかけて準備しなくてはならないわけですから、プーチンは複数のプランを持っていて、状況の推移を見ながら判断しており、土壇場で「これなら行ける」と決断した可能性はあります。

しかし、プーチン(ガルージン駐日ロシア大使も含めて)は「ウクライナへの軍事侵攻は考えていない」と何度も発言しているのですから、いきなり全面侵攻を開始したら騙し討ちのそしりを免れません。

なぜ全世界を敵に回してまでプーチンはウクライナ全面侵攻を決意したのでしょうか?

そこには、ロシアが継続的に問題視しているウクライナのNATO加盟を超えた要素が存在したのです。

プーチンにとっては「祖国奪還戦争」

そのひとつが、世界と日本が見落としているプーチンのウクライナ観であり、さらに、ウクライナが地政学的に緩衝地帯国家でありながら親米政権がアメリカ民主党に同調し過ぎた挙句、利用されて棄てられたという現実でした。

侵攻の10日前にガルージン駐日ロシア大使がTBSのインタビューに応じ、ロシアの立場を説明しているのですが、その中で、ロシアが一方的に軍事侵攻することはない、と明言すると共に、ロシアはウクライナを同じ民族だと考えている、と発言しました。

ここは「ロシア語を話す人もいるのだから、親戚のような民族なんだろうな」と普通に聞き流してしまうところですが、プーチンのウクライナに対する思いはそんなものではありませんでした。

実は、クレムリンのホームページには、プーチンがウクライナに対する思いを綴った、相当長い文章が掲載されています。それを読むと、プーチンがウクライナを「単なる親戚」ぐらいに考えているわけではないことがわかります。

プーチンは、かつてロシアもウクライナもベラルーシもひとつの国で、ひとつの言語を話す同一民族だった、と強調します。その古代帝国の首都はキエフでした。そして、ロシア正教の本部もキエフにありました。そのようなウクライナが西洋諸国の謀略による壁によって隔てられてしまっている、とプーチンは嘆きます。

従って、ロシア人にとってキエフは日本人にとっての京都や奈良であり、さしずめ近畿地方が外国勢力の配下に入って、反日行為を繰り返しているようなものだというわけです。

ですから、プーチンはたとえ武力を行使してでも、かつての大ロシアに回帰したいと熱望しています。「プーチンはかつてのソ連の勢力圏復活を目指している」と主張する識者もいますが、プーチンが目指しているのはさらに昔の古代帝国なのです。

もちろん、ウクライナ人はこの「ロシア・ウクライナ同祖論」に異論があるでしょうが、現在の戦争は、プーチンにとっては祖国奪還戦争であり、領土拡張主義ではないと認識している点は見落とすべきではありません。

この視点がないと、現在の全面侵攻作戦はやはり説明できません。東部親ロシア派住民の保護と治安維持目的というストーリーからはあまりにも飛躍しているからです。

アメリカ民主党政権に追随する道

そして、もうひとつのポイントが、ロシアは単にウクライナのNATO加盟を恐れているというよりも、ヤヌコビッチ政権がクーデターで倒れた後の政権自体が、完全にアメリカの傀儡であり、ロシアにとっての脅威であると見なしている、という点です。

ウクライナという国は、西側(NATO)とロシアの間に挟まれた緩衝地帯国家です。日本もかつて冷戦構造の最前線にあり、今は米中対立の最前線に位置しますが、緩衝地帯ではなく、完全にアメリカの前線基地です。日米安全保障条約があり、国中に米軍基地が置かれています。

一方、ウクライナはNATOにも属さず、米軍基地も持たない、大国に挟まれた文字通りの緩衝地帯国家です。常に両方に引っ張られる宿命にあります。

このような国の場合、両方とうまくやりながら微妙な中立を保たなければなりません。一方に露骨に付いてしまうと、もう一方から強烈な攻撃を受けるからです。

しかし、ウクライナはそれができませんでした。アメリカ民主党政権によって、ロシアに対する噛ませ犬として使われ続けてしまったのです。また、自らアメリカ民主党政権に自国の安全保障を委ねてしまいました。

2013年、EUはウクライナに対して経済や政治などで関係を強化する「連合協定」をオファーしました。多くのウクライナ人が、EU加盟に繋がるものと信じました。ヨーロッパ製品がウクライナに流れ込み、ロシアにも流れるはずでした。

ところが、その狙いはロシア経済に打撃を与え、国民の不満を高めてプーチンを退陣に追い込むことだと考えたプーチンは、ヤヌコビッチ大統領に最後通牒を突き付け、協定を拒否して、代わりにロシアからの150億ドルの支援を受け取るか、制裁を受けるかの選択を迫ります。

ヤヌコビッチが急遽、協定締結準備を停止すると、2014年、オバマ政権に支援されたクーデターが発生し、ヤヌコビッチを退陣に追い込みます。背後からロシアを敵視するグローバリストのジョージ・ソロスの支援があったとも噂されています。

すると、プーチンは対抗措置としてクリミアを併合しますが、オバマ政権は危険を感じるウクライナに軍備を提供することなく、ロシアに対する経済制裁を実施します。

これでウクライナとロシアの対立は決定的なものになってしまいますが、ウクライナはさらにアメリカ民主党政権に追随する道を選んで行きます。

ハンター・バイデンのスキャンダル

2014年には当時副大統領だったバイデンの息子のハンター・バイデンをウクライナ最大手の天然ガス会社であるブリスマの取締役に就任させ、高禄を食ませます。

そのブリスマが脱税などの不正疑惑でウクライナの検察に追及されると、バイデンは当時のポロシェンコ大統領を脅迫して、検事総長の解任を要求します。

この時の電話での会話がネット上に出回っていたので、私も聞きましたが、ポロシェンコは忠実にバイデンの命令に従って検事総長を解任したことを伝え、バイデンは上機嫌で応じていました。

もちろん、ポロシェンコはアメリカに守って欲しいから、必死に便宜を図っているわけですが、ウクライナはさらに西側への接近を希求し、2017年、「NATO加盟を優先事項にする」という法律を制定し、2019年には「NATOとEUへの加盟を努力義務とすること」を憲法に書き込むに至ります。

また、ウクライナには2005年以来、当時上院議員だったオバマが推進した合意に基づき、アメリカ国防省の管理下にある生物学研究所が最低15か所存在し、生物兵器が研究されていると報じられています。それらの研究所の周辺では度々感染症のアクトブレイクが発生し、多数の死者が出たと言われています。

さらに、ウクライナはトランプ攻撃であるロシアゲートに次いで、ヒラリー・クリントンが主導するウクライナゲートなるキャンペーンにも積極的に関与してしまいます。

民主党政権に利用され棄てられたウクライナ

2021年9月には、大統領となったバイデンの下で、ウクライナはNATOを中心とした大規模軍事演習に参加し、10月には対戦車ミサイルシステム(ジャベリン)を180基配備しました。

これでは、ロシアから見たらウクライナは完全にアメリカ(民主党)の手先であり、安全保障上の脅威として認識されてしまいます。

そして、いよいよ緊張が高まり、ロシアのウクライナへの軍事侵攻が現実的になると、バイデンは「ウクライナへ米軍を派遣してロシアと戦うことはない」と何度も明言し、プーチンに軍事的に戦う意思はないとシグナルを送りながら、高騰した天然ガスをヨーロッパに売り込みます。まるでウクライナを餌にプーチンを戦争に誘っているかのようです。

つまり、プーチンが主張するウクライナの非武装化と中立化とは、単にウクライナのNATO加盟を阻止するだけではなく、アメリカの先兵と化してアンチロシアで利用されるウクライナの政権を叩き潰すという意味があったのです。

これらの点を勘案して、やっとプーチンの論理の飛躍、すなわち、東部共和国の実効支配と平和維持から全面侵攻への飛躍が説明できるのです。

もちろん、だからといって、騙し討ちのような全面侵攻はあからさまな侵略行為であり、肯定できるものではありません。あまりにも無謀だと言えるでしょう。無謀過ぎて、プーチンパーキンソン病説が流れるほどです。

しかし、過去何百年にも渡って他国による支配を受けて来たウクライナは、緩衝地帯国家という特殊な立場に居ながら、地理的に遠く離れた悪辣なアメリカ民主党政権に追随し、利用され、あれほど便宜を図ったにも拘らず、梯子を外されて棄てられ、ロシアに蹂躙される羽目に陥ったのです。

言い換えれば、自らの安全保障をアメリカ民主党政権に委ねる賭けに出て、大失敗に終わったということです。

アメリカに安全保障を依存する日本は、このウクライナの悲劇に大至急学ばなければ、明日は我が身となることでしょう。

(2月28日発行 有料メルマガ「山岡鉄秀の対外情報戦で勝ち抜けろ!」

著者略歴

山岡鉄秀(Tetsuhide Yamaoka)

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