「ゾンビ企業率」、業種間格差が鮮明 ~続・ゾンビ企業って言うな!~

改善傾向の「ゾンビ企業率」

 国際決済銀行(BIS)が定める「ゾンビ企業」の定義に従って、東京商工リサーチ(TSR)が保有する企業データベースを分析すると、「ゾンビ企業率」は2011年度(4-3月)をピークに低下傾向にある。
 BISは「設立10年超で3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオ(利払いに対する営業利益+受取利息・配当金の比率)が1を下回る」場合、「ゾンビ企業」と定義している。より精緻に分析するため、「BIS基準」の分母を営業キャッシュフロー(営業CF、簡便法)に変更し、期末時点の「債務超過」も条件に加え分析したが、同じ傾向だ。
 また、「BIS基準+債務超過」と「営業CF基準+債務超過」の両方に当てはまる「ゾンビ企業率」は、2011年度の1.00%をピークに低下し、近年は0.5%前後で推移している。

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業種間で格差

 ただ、業種別の「ゾンビ企業率」は大きく異なる。2021年度は決算未確定企業も多いため、2009年度(0.49%)と2020年度(0.56%)で比較した。
 2009年度の「ゾンビ企業率」ワーストは、「宿泊業」の2.03%だった。しかし、2020年度は1.14%(0.89ポイント減)と大幅に改善した。単年度ではコロナの影響を大きく受けたものの、2019年の訪日外国人数が過去最多の3188万人(JNTO)となるなど、コロナ禍前まで旺盛なインバウンド需要を取り込んでいた。このため、「ゾンビ企業率」算出の前提となる「3年以上にわたって」に当てはまる企業が抑制された。
 一方で、2020年度の「ゾンビ企業」に当てはまった1.14%は、コロナ前から稼ぐ力が弱く、財務も脆弱な企業が多かったことを示している。こうした企業は抜本再生を含め、遠くない時期に事業の在り方と向き合わなくてはいけない可能性を示唆している。
 ただ、「宿泊業」の中でも今後の業績回復に差が生じることには留意が必要だ。インバウンドをメインにしていた企業は、渡航制限が全面的に解除されるまで影響が続くことになる。一方、国内旅行者が中心の場合、どこかのタイミングで再開される「Go Toキャンペーン」やリベンジ消費の恩恵を早期に受ける可能性もある。メインターゲットを柔軟に転換できるかどうかも生き残りのカギとなる。

アパレルの苦境
 2009年度に0.36%で11番目だった「織物・衣服・身の回り品小売業」は1.00ポイント増加し、2020年度はワーストとなった。
 2009年度にワースト20ランク外だった「繊維・衣服等卸売業」は、2020年度は0.68%で11番目にランクした。いわゆるアパレル関連と呼ばれるこれらの業種は、ファストファッションの台頭や百貨店不振の影響を大きく受けている。倒産推移も他の業種と比べ、概ね減少幅が鈍く推移している。さらにコロナ禍は外出自粛の影響も受け、「コロナ前もコロナ禍も」逆風が吹き荒れている業種といえる。

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飲食トレンドの変化
 2020年度の3番目にランクしたのは、「飲食業」で1.09%だった。2009年度は0.59%で0.50ポイント増加した。コロナ禍の影響を大きく受けている業種であり、今後の「ゾンビ企業率」はさらに高まる可能性もある。さらに、コロナが収束しても長引くコロナ禍による「生活様式の変化」が経営に悪影響を及ぼす恐れもある。
 TSRが2021年12月初旬に実施したアンケートによると、同年の忘年会を「実施しない」と回答した企業は79.4%に達した。このことがマスコミやネットニュースなどで報じられると「忘年会離れ」とのキーワードとともに、この流れを歓迎する意見もニュースへのコメントやSNSなどで多くみられた。会社主催の忘年会自体が時代遅れで、コロナ禍はきっかけに過ぎないとの見方だ。
 店舗の所在地を在宅勤務が進むオフィス街から持ち帰りニーズに対応した上で住宅地へ移転したり、居酒屋もファミリーや「おひとり様」需要を取り込む業態への転換など、発想の転換が必要になっている。

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 「ゾンビ企業率」はこの10年で大きく改善した。ただ、これまで見てきたように業種間の格差は大きく、優勝劣敗は鮮明だ。
 今回分析した「ゾンビ企業率」の算出では、「利払い」が分子になっている。現在は金融緩和により抑制されているが、いつまでもこの状況は続かない。倒産を抑制しているゼロ・ゼロ融資の返済や利払いも始まる。
 3月4日、政府は「中小企業活性化パッケージ」を公表し、収益力改善・事業再生に向けた取り組み強化を打ち出した。従来の緊急避難的な資金繰り支援策から、こうしたポストコロナを見据えた取り組みを進めないと、遠くない将来に「ゾンビ企業率」が跳ね上がりかねない状況だ。

  • ※本稿は、東京商工リサーチ・市場調査部分析チームと情報本部が共同で作成しました。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年3月7日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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