女子の大学進学「東京7割」「鹿児島3割」これって公平? データでみる都道府県のジェンダー平等(2)前編 令和の教育格差、残る地域・性別ギャップ

新型コロナの影響で約1年2カ月遅れで開かれた東京大の入学歓迎式典=2021年6月(代表撮影)

 18歳女子10人のうち四年制大学に行くのは、東京なら7人なのに、鹿児島では3人どまり―。文部科学省の2021年春のデータを都道府県別に試算したところ、こうした結果になった。女子の四大進学率が男子を上回ったのは徳島と沖縄のみ。令和になっても、性別や暮らす場所による進学格差が見える。もちろん四大に進むことが全てではないが、学びたい女性が十分に学べるようになれば、それぞれの人生はもっと豊かになるのではないか。そんな問題意識で課題を探った。(共同通信・酒井沙知子、三浦ともみ)

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https://www.47news.jp/47reporters/7455510.html

 ▽地域差2倍、男女格差は20ポイント超え

 共同通信では、幼稚園から大学や短大などの状況を網羅した文科省「学校基本調査」のうち、2021年春の「出身高校の所在地県別の大学入学者数」(浪人生らを含む)を男女別にまとめ直した。母数となる18歳人口は、高校などに進んでいない人たちを含む適切な公的統計がないため、3年前に中学に相当する学校を卒業した人数を足し合わせて算出した。(※詳細な算出方法は記事の最後)

 

 女子の場合、東京が74・1%で最も高く、次いで京都66・8%、少し離れて兵庫56・1%、奈良55・5%、大阪54・6%。12都府県で50%を超えていた。下位は低い方から鹿児島34・6%、大分35・8%、佐賀36・6%、山口37・1%、岩手37・4%と続き、30%台は10県だった。男子の最上位は女子と同様、東京の74・8%。最も低かったのは山口の39・0%で、他に30%台はなく、50%超は24都道府県あった。

 都道府県内で男女の数値を比較すると、山梨は男子72・7%に対し、女子54・5%。男子は女子の1・33倍と全国で最も大きい差があった。他に差が大きいのは、埼玉(男59・7%、女47・8%)や北海道(男51・4%、女41・2%)だった。

 高校の所在地別に集計しており、東京の高校は近郊から生徒を集めるため数値が高めに出て、近郊の県は低めになるといった可能性がある。それでも、女子の四大進学率は東京と下位の県では2倍以上、同一都道府県内の男女では20ポイント超の開きが確認でき、進学には根強い地域、男女格差が残る実態がうかがえる。

 ▽重すぎる学費・下宿代、年200万以上も

 

 格差はなぜ生じるのだろうか。女子の四大進学率が最も低い鹿児島について、同県立高校のある男性教員は「所得水準と地理が要因の一つではないか」と指摘する。日本学生支援機構の18年度調査によると、下宿して私立大に通う場合、学費・生活費の合計は年間平均で約249万円。自宅通学より約68万円多い。

 鹿児島は九州最南端に位置し、県内の大学は鹿児島大と鹿屋体育大の国立二つの他、私立が四つ。人気が高く、幅広い学部・学科をそろえる福岡の大学に進学すれば、下宿必須となる。

 鹿児島は男子の四大進学率も、42・8%と全国下位グループに甘んじる。県教委の担当者は「他県より普通科に通う高校生が少なく、専門高校に通う生徒が多い。大学進学を目指して高校に進む割合が小さい」と強調。男性教員は「経済的に苦しく、下宿までして大学に行く意味がないと考える保護者、生徒も多い」と話す。

 同様の傾向は全国で見られ、大学が少なく、所得水準が低い地方では男女とも進学率が低迷する。人気の大学は都市部に集まり、地方在住者は大きなハンディを抱える。

 ▽進路指導に男女ギャップ?

 男女の進学率ギャップが最も大きかった山梨では、ジェンダー問題の存在を示唆する声が上がった。同県立高校のある女性教員は、進学校で進路指導を担当した際「女子生徒の保護者から『手元に置きたい』『地元で就職してほしい』という声をよく聞いた」と語る。県外の難関大を勧め、断られたこともある。「女子の進学は男子より家庭の環境や価値観に左右されやすい」と指摘する。

 女性教員によると、進学実績は学校の評判に直結する。進路指導担当の教員には、良い結果を出すよう管理職らからプレッシャーがかかる。担当教員は長時間労働が当たり前のため、家事や育児を担いがちな女性は少なく、男性が大半を占めている。そのためか「女子は浪人しても伸びない」「男子は理系、女子は文系」との先入観が根強く残るという。

 この女性教員は「自分も無意識に男女に分けた指導をしていた。この10年ぐらいで、学校にも(女性の活躍を妨げる)『ガラスの天井』があると気付いた」と明かす。

 中学・高校段階の「中等教育」を終えた後に進む大学や短大、専門学校は「高等教育」機関と呼ばれる。山梨の動向をつぶさに見ると、女子の高等教育進学率(専門学校進学は高卒現役生のみ)は85・6%で、男子88・2%に近づく。高等教育進学率は全都道府県で男女同程度か女子が上回り、鹿児島など女子の四大進学率が低い県では、女子は四大ではなく、短大や専門学校進学率が進む傾向が見て取れる。

 短大や専門学校は地方にも数多く、四大より短い期間で卒業できる。看護、保育、医療技術系など手に職が付く専攻が人気を集める。

 関東地方で保育を学ぶ女子短大生に進学理由を聞いたところ「四大に行ってから就職、結婚して子どもを育てるのは大変。短大の方が早く働け、子どもを育てやすい」「県内に大学が少なかった。たくさん資格を取れる」などと説明した。

 都内の私大教員は、出産や子育てというライフイベントを考えれば「コストパフォーマンスが良く、いったん仕事を辞めても再就職しやすい進路を選んでいるのではないか」と見る。

 ▽大学「全入」時代到来

 近年、女子の四大進学率は全国的に上昇している。21年春の全国の進学率は男子57・4%に対し、51・3%。1950年代半ばには50人に1人程度だったが、18年春に半数を超え、男女の差も縮まっている。大学新設や短大の四年制への衣替えが後押しし、自治体が支援して学費の高い私立大を公立化する動きも見られる。公務員や教員、薬剤師などを目指す一部女性の進路という位置付けを脱した。

 大手予備校によると、少子化のため入学希望者が大学の総定員を超え、理論上は希望者全員が入学できる「大学全入時代」が近く到来する。このため進学率はさらに上昇するとの試算もある。

 

桜美林大の小林雅之教授(本人提供)

 ただ、地方の景気は厳しい。桜美林大教授(高等教育論)の小林雅之さんは、大学進学について「学力だけでなく、家庭の所得、本人や親の意欲などが関係している。家計が苦しい地方の女子は最も不利な立場にある」とし強調。今後の進学率の伸びについて「新型コロナウイルス禍や経済事情の変化があり、先行きは見通せない」との見方を示す。

 女子の進学の在り方はこのままでよいのだろうか。鹿児島国際大名誉教授(ジェンダー論)の山田晋さんに尋ねた。山田名誉教授は、短大や専門学校が果たしてきた役割を評価する一方、4年かけて仲間と議論し、幅広い知識を獲得できる大学の魅力は大きいと力を込める。

 各地の中心的存在である旧帝国大や理工系では、女子学生はいまだに少ない。21年春の東大合格者に占める女子の割合は2割ほど。山田さんは「大学に進む女子がもっと増えなければ、男性中心の政治や経済はなかなか変わらない」と訴える。

大阪大の入試会場に向かう受験生ら=2月25日

 国は20年春、大学や短大、高専、専門学校で学ぶ学生の授業料を減免し、返済不要の奨学金を支給する修学支援制度を作った。ただ、対象は低所得世帯に限られる。小林さんは「対象世帯の所得区分が三つしかなく、わずかな差で支給額が変わる。中間層への支援が導入前より乏しくなっている」と批判し、改善を求める。

 山田さんは、先の見通せない時代を生きる若者は、安くない学費を払う意味をシビアに見ているとも言う。せっかく大学に入っても「学費が払えない」「面白くない」と退学を考える学生に接してきた。「『大学に入れば力が付く』と広まれば、おのずと女子の進学者も増え、学生のためになる。大学教育も問われている」と静かに語った。

後編はこちら https://www.47news.jp/47reporters/7540596.html

 【大学進学率の試算方法】

 文部科学省の学校基本調査から算出した。2018年春の中学校や特別支援学校など中学段階の卒業生徒数から、21年春の18歳人口を推計。これを分母とし、都道府県別の四年制大への進学者数を分子とした。記事中では小数点第2位を四捨五入。文科省も審議会などで、同様の手法で進学率を算定している。文科省は特別支援学校卒業者を除いて18歳人口を推計しているのに対し、今回の試算はこの人数を含めた。出身高校の全日制や定時制、通信制の種別は不明。

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