オーストラリアのプロ野球で初の女性選手が好投 17歳の左腕ジェネビーブ・ビーコム投手、「努力で道は開ける」

オーストラリアのプロ野球で女子選手として初めてプレーしたエースズのジェネビーブ・ビーコム(球団提供・共同)

 オーストラリアのプロ野球で初めて女性選手が出場した。エースズの17歳の左腕ジェネビーブ・ビーコム投手が、1月8日のジャイアンツ戦で1回無失点の好救援。米メディアや大リーグ公式サイトでも取り上げられるなど、大きな反響を呼んでいる。性別による体力差が小さい子どものころに男子チームに交じってプレーするケースは見られるものの、トップレベルでは珍しい。男性の競技というイメージが強く、女子選手がプレーする環境の整備が遅れてきた野球界で、道を切り開こうとしている。(共同通信=木村督士)

 ▽最速135キロ

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、ビーコム投手は身長188センチで最速135キロの直球を投げ、大きなカーブやチェンジアップも武器とする。2021~22年シーズンは新型コロナウイルス感染拡大により中止となったが、特別に組まれたシリーズで出場機会を得た。

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 0―4の六回に登場し、走者を背負っても慌てることなく、得意のカーブも交えながら打たせて取った。無安打無失点の好投で観客から喝采を浴び、試合後のインタビューでは「ただ失点を防ぎたかった。相手には勢いがあったので、目標は得点を止めることだった」と振り返った。

 左投手として大リーグのヤンキースで2度ワールドシリーズ優勝の実績があるロイド投手コーチは「素晴らしい瞬間。いい仕事をした」とたたえた。「動きは良かったし、いい球を投げていた。『ここで十分やっていけそうだね』という声も上がっていた。野球の実力は本当に特別」と初登板に高評価を与えた。

 ▽男子チームへのこだわり

 幼い頃に兄サムさんの影響で野球を始めた。ティーに置いた球を打つ簡易版のゲーム、ティーボールが入り口だったという。女子はソフトボールに転向したり女子チームに進んだりする例が多いが、男子チームでのプレーにこだわってきた。大リーグ公式サイトのインタビューでは、お気に入りの投手にヤンキースのエース、コールを挙げている。

エースズのジェネビーブ・ビーコム(球団提供・共同)

 現役時代に米大リーグで救援投手として活躍したモイラン監督に見いだされ、22~23年シーズンの育成選手としてエースズと契約した。「信じられなかった。ピート(モイラン監督)が近づいてきて、知らせを聞いたとき、本当にうれしかった」と振り返る。

 明るく快活な人柄で知られ、メジャーで川上憲伸投手や斎藤隆投手と同僚だった同監督は「ジュニア時代から成長を見てきたが、国内に加え世界のトップ選手に対しても、見事に渡り合う以上のことをしてきた。彼女は100パーセント、自分の居場所を勝ち取った」と実力に太鼓判を押した。

 ビーコム投手は米大学への進学を希望しており、プロチームでのプレーはそのためのステップでもある。「モイラン監督のような指導者たちと一緒にやれるのは成長につながる。とてもレベルが高いので、大学の環境に身を置くようなもの。全ての面において、より素晴らしい野球選手へと自分を高めてくれる」と充実して野球に打ち込んでいる。

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 ▽不可能はない

 女子の野球選手として、厳しい現実に直面したことも。ニューヨーク・タイムズの取材には、ある米大学の説明会で奨学金制度について尋ねたところ、女子学生にはソフトボール選手用の奨学金はあるが野球はないと説明されたエピソードを明かし、「たいていの女子が経験していることで腹が立つ。だって今やたくさんの女子が野球をプレーしていて、それが見られるのは本当に素晴らしいのに」と憤った。

エースズのジェネビーブ・ビーコム(球団提供・共同)

 試合で対戦する屈強な打者たちだけでなく、女子野球への無理解や偏見もビーコム投手が戦う相手だ。メルボルンの地元紙エイジには「人々が男性のスポーツだと考えているものをプレーすることは女性にも可能。間違いなく自分はそれをモチベーションにしてきた」と述べ、男子のプロチームで登板を果たしたことの意義について「特に野球をプレーする他の女性にとって、大きなインパクトになる」と胸を張った。

 ジャイアンツ戦後の中継局のインタビューでは、後に続く女性たちへのメッセージを求められ「もし誰かにやりたくないことや“他にすべきスポーツ”を押しつけられそうになっても聞かなくていい。やりたいことをやって努力すれば道は開ける。不可能なんてない」と語った。

ビーコム投手の動画はこちら

https://twitter.com/MelbourneAces/status/1480307526096850947?s=20&t=dSw2qO3EOhPHWncCRVERVw

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