メクル第610号 見てみて!おしごと プリパレーター・小川萌菜さん(19) 「埋もれた化石を削り出す!」

「たくさんの人に見に来てほしい」と話す小川さん =長崎市野母崎

 昨年10月29日にオープンした長崎市恐竜(きょうりゅう)博物館。その目玉の一つにオープンラボがあります。
 化石を研究している様子を間近で見学できる、文字通り開かれた研究室で、ここには国内の自然史(しぜんし)博物館では数少ないX線CTスキャナーを導入(どうにゅう)した研究室や、岩石から化石を削(けず)り出すクリーニング室があり「プリパレーター(化石剖出(ぼうしゅつ)技師)」と呼(よ)ばれる恐竜研究に関わる仕事をしている人がいます。

  縁(えん)の下の力持ち

 プリパレーターとは、化石研究の「準備(じゅんび)をする人」という意味。化石は古い地層(ちそう)の中に埋(う)まっているので、クリーニングと呼ばれる周りの石や土を取り除(のぞ)く作業をして一目で分かる標本にするのが仕事です。
 発掘(はっくつ)された化石について、研究者(学芸員)がどんな恐竜のどこの部位なのかを調べて特定したり、前例がなければ新種の恐竜だと論文(ろんぶん)発表したりする上でなくてはならない縁(えん)の下の力持ちとして恐竜研究を支(ささ)えます。
 日本ではまだまだ知られていない職業(しょくぎょう)ですが、欧米(おうべい)ではプリパレーターの名前がそのまま恐竜の学名になったこともあるそうです。

  集中力と丁寧(ていねい)さ

 特別な資格(しかく)はなく、私(わたし)も求人を見つけて応募(おうぼ)しました。現在(げんざい)、全国でプリパレーターとして働いている人は数えるほどしかいません。
 最初の仕事は3センチほどの首長竜(くびながりゅう)の歯で10日間くらいでクリーニングできましたが、大きな化石であればもっと時間がかかります。毎日0.1ミリ単位の作業を続けられる集中力や丁寧(ていねい)さ、学芸員の指示(しじ)を理解(りかい)し確認(かくにん)できるコミュニケーション力は大切だと思います。また化石の保管(ほかん)は誰(だれ)が見てもわかるように工夫が必要なので整理整頓(せいとん)が好きな人は向いているでしょう。

実体顕微鏡を見ながら化石を傷つけないように少しずつ削って掘り出す

 将来(しょうらい)プリパレーターを目指すなら地質学(ちしつがく)や生物学を学んでおくといいですね。岩石はできた時代や産地によって硬(かた)さや性質(せいしつ)が異(こと)なるし、それによって中に埋まっている化石自体の石化、風化の度合いも違(ちが)ってきます。壊(こわ)れやすい化石は薬品を使って補強(ほきょう)したり、化石周りの岩石を溶(と)かしたりすることも。知識(ちしき)や経験(けいけん)が増(ふ)えれば、技術(ぎじゅつ)も向上すると実感でき、やりがいがあります。

(上)長崎市高島町(端島)で発見されたオオシジミの化石、 (下)周りの岩石を削り、化石が壊れないように薬品で保護した標本

 この博物館には3人のプリパレーターがいますのでクリーニングの様子はオープンラボで、いつでも無料で見学できます。来場者の方々が楽しそうに見てくれると励(はげ)みにもなるし、いつか新発見の感動を共有できたら最高ですね。

  地元の宝残そう

 野母(のも)半島の海岸で発見された黒いかたまりの岩を6年かけてクリーニングや解析(かいせき)を行い「県内初の恐竜化石」と鑑定(かんてい)、正式発表されたのは2010年。その後も「三ツ瀬層(みつせそう)」と呼ばれる約8千万年前の地層からは大型恐竜の発見が続いています。
 今夏は、ジュラシックワールドシリーズの最新作が公開されます。映画(えいが)を見て一人でも多くの人が恐竜に興味(きょうみ)を持って、地元の宝を残していってくれることを願っています。

クリーニングで使用する道具。最初にハンマーやノミで石を割り、エアースクライバー(ドリル)で細かい土を削り落としていく。破片は右上の集じん機で吸い取る

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