全国的にも珍しいシニアとボーイズの連携 硬式野球発展へ川崎市が示す“変革”

神奈川県・川崎市ではシニアとボーイズが連携し地元の硬式野球発展に努める【写真提供:川崎硬式野球協議会】

川崎市のシニア3チームとボーイズ1チームが「川崎硬式野球協議会」に所属

子どもたちが目いっぱい野球できる場所を守る。共通の思いがリーグの垣根を越えた。別々に活動して交流がないのが当たり前となっている中学硬式野球のシニアとボーイズのチームが、神奈川県川崎市では同じ協議会に所属している。違うリーグでプレーする子どもの保護者が連携してグラウンドを整備し、一緒に野球教室も開いている。

川崎市中原区の河川敷には首都圏では貴重な硬式野球場がある。川崎市が所有し、川崎硬式野球協議会が管理と運営を担う「川崎市多摩川丸子橋硬式野球場」。半官半民は異例の取り組みだが、川崎市の硬式野球事情を語る上で、もう1つ、全国的にも珍しい特徴がある。シニアとボーイズが連携して活動しているのだ。川崎硬式野球協議会の中嶌竜平事務局長は「首都圏や関西など他の地域でリーグの違うシニアとボーイズが、川崎ほど手を取り合って一緒に協力しているところはないと思います。少年野球を知る人から見れば、革命的です」と強調する。

シニアもボーイズも同じ中学生の硬式野球だが、歩んできた歴史に違いがある。関東を中心にするシニアに対し、大阪で発祥したボーイズは関西から関東へ広がってきた。リーグが別々のため、ほとんど交流がないのが一般的。同じ地域にシニアとボーイズのチームがあると部員を取り合うこともあり、関係が良好とは言えない地域も少なくない。

川崎市のシニアとボーイズも元々、交流はなかった。だが、川崎市に練習場所が少ない悩みや、野球をしたい子どもたちが東京や横浜市に流出している状況への危機感は共通していた。そこで、川崎市にある社会人チーム、中学生のシニア3チームとボーイズ2チーム(現在は1チーム)は、多摩川丸子橋硬式野球場を管理・運営する川崎硬式野球協議会を2011年に立ち上げ、地元の硬式野球発展へ、ともに歩むと決めた。

昨秋開催した硬式野球体験会には市内に住む156人の小学6年生が参加した【写真提供:川崎硬式野球協議会】

球場使用は平等に割り当て、シニアもボーイズも融通利かせて日時を交換

野球場の使用は現在、3か月に1回開く調整会議でチームに偏りが出ないように日時を割り当てている。平等を保ちながら、シニアの大会がある時期はボーイズのチームが球場の使用を譲り、ボーイズのチームが急きょ球場を使いたくなった時はシニアのチームが他の使用日と交換するなど、互いに融通を利かせている。球場の整備も協力している。保護者はシニアもボーイズも関係なく、泥が詰まった側溝を掃除したり、芝生を刈ったり、土を入れたりして、子どもたちのためにグラウンドのコンディションを維持している。

昨秋に開催した硬式野球の体験会は、連携の象徴する出来事だった。川崎市に7つある区のうち、主に3つの区に住む小学6年生を対象にした体験会には、予想を大きく超える156人が集まった。保護者には受付やノックなどの役割が割り振られたが、どの保護者も自分の子どもが所属しているチーム名を伏せていたという。目的はチームへの勧誘ではなく、硬式野球の普及だからだ。

体験会を主催した川崎硬式野球協議会の中嶌事務局長は「川崎で硬式野球をする子どもを増やしたいという思いはシニアもボーイズも同じです。自分たちのチームだけが生き残っても、川崎市全体の硬式野球が衰退すれば、練習や試合場所は別の目的で使われてしまいます」と力を込める。3つの区の小学6年生だけでも、これだけ多くの子どもたちが硬式野球に興味を持っている。協議会は今年、さらに規模を大きくして体験会を開く計画を進めている。

野球をする子どもが減っている。首都圏には野球をする場所がない。しかし、現状を嘆く前にできることはある。川崎市のシニアとボーイズの連携は他の地域でも参考になるだろう。これまでの当たり前を打破することで、新たな可能性は生まれる。(間淳 / Jun Aida)

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