<書評>『世界のオーケストラ(3) ~日本、オセアニア、中東、アフリカ、アジア全域編~』 「クラッシック愛」詰まった大作、完結

 ついに最終編である。2015年に(1)北米、中米、南米編(55楽団)、17年に(2)パン・ヨーロピアン、英、露編(上下巻120楽団)を発刊。そして、今回の(3)日本、オセアニア、中東、アフリカ、アジア全域編(47楽団)で完結となった。全部で49カ国222楽団を収録している。
 これだけをみると7年でまとめたようにみえるが、単行本の基になった「月刊・音楽現代」に1989年に連載を始めてから、実に30余年かけたことになる。それだけの大作、労作、偉業なのである。
 本書が取り上げたのは、演奏水準、公演回数、推薦ディスクの有無など、著者自身が課した厳しい基準をクリアした楽団を基本にしている。読者のクラシックに対する知識によって専門書、入門書どちらにもなる書である。
 著者は高校教諭を定年退職するまで、プロ・アマあわせて世界各地で500団体以上の実演を聴き、カルロス・クライバー、W・サヴァリッシュら名だたる指揮者、M・アルゲリッチ、ヨーヨー・マら演奏家など400人余にインタビュー。さらに電話や手紙、メールで取材を重ね、出版時に最新情報に書き直している。
 今回の〈日本〉の項では読売、日本フィル、N響など27楽団を紹介しているが、最後に取り上げたのは、わが琉球交響楽団である。「プロオーケストラの存在しない場所に長く住んで」失意ともどかしさを感じていた著者は、2001年に誕生した待望の沖縄初のプロオーケストラに大きな期待を寄せる。それゆえ、温かいまなざしの中にも、この地に根づいてほしいとのエールを込めて厳しい注文をつけ、傾聴すべき提言もしている。
 宮古島の小学高学年の時に、ラジオから流れる曲(後にベートーヴェンの交響曲第6番「田園」と知る)を聴いたことがきっかけでクラシックに傾倒していったという著者の半世紀余にわたるクラシック愛、オーケストラ愛がつまった好著である。
 読者はきっと読後に、オーケストラによるクラシック音楽が聴きたくなるに違いない。
 (大濱聡・元NHKディレクター・プロデューサー)
 うえち・たかひろ 1948年宮古島市(旧城辺町)生まれ。琉球大卒業後通算5年米国で生活。学業の傍ら各地の演奏団体など取材。著書に「アメリカ・オーケストラの旅」「遙かなるオルフェス」など。

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