長崎西洋館(長崎市川口町)3階の女子トイレ。個室のドアを開けると、トイレットペーパーと並んで20個ほどの生理用ナプキンがかごに入っていた。性教育などに取り組む県内六つの団体でつくる「『生理の貧困』対策プロジェクト・ながさき」が備え付けたもので、昨年10月から県内の学校など約25カ所で生理用品を無料配布している。メンバーの中山安彩美さん(35)は言う。「生理用品が買えずに悩むことがない日常をつくりたい」
◆教育が必要
北海道出身。中高生の頃、望まない妊娠や性感染症などで涙を流す友人がいた。話を打ち明けられても自分自身に知識がなく、適切なアドバイスができなかった。10代の妊娠・中絶などの問題が「悲しみの性」と呼ばれていることをのちに知る。
こうした問題に苦しむ人たちの力になれないか。22歳で看護師になった。新生児集中治療室(NICU)も担当。中には予期せぬ妊娠の末に出産する事例などもあった。「悲しみの性」の現実に再び直面し、若者をどう守るか、性に関する知識をどう伝えればいいのかと考えた。「必要なのは教育だ」
◆正しい認識
結婚を機に2011年、夫の出身地・長崎に移住。長崎市内の医療機関に再就職した。17年3月、民間資格「思春期保健相談士」も取得。仕事と並行して性教育の啓発活動を始めた。21年には性の知識普及に向けて、市民団体「長崎性教育コミュニティ アスター」を立ち上げた。
コロナ禍の中、経済的貧困で生理用品を購入できない若者の姿がクローズアップされた。いわゆる「生理の貧困」問題だ。経済的理由だけでなく、生理について社会全体で正しく認識されていないことや、口に出す難しさ、周囲に助けを求めることの困難さも背景にあるのではないか。
そんな問題意識から、昨年10月にプロジェクトが発足し、アスターも参画。目標は「トイレットペーパーが無料で設置されているように、ナプキンがある風景」。同月、長崎市内の大学のトイレなどに設置。今年1月からは県内8校のトイレにも置き始めた。
盗難を心配したが「困っている人や取りに来る人を信じよう」。今のところ被害などは出ていない。プロジェクト実現のため協力を募ったクラウドファンディング(CF)には、目標の120万円を超える約200万円が集まった。「応援してくれる人がいる」と励みになった。
◆資金的困難
プロジェクトを永続的に続けるのは資金的に困難だし、生理用品の配布が「根本的な解決にはなっていない」ことも分かっている。それでも、問題解決に向けたモデルケースを示し、公的機関などが動く流れをつくりたい。プロジェクトは3月末までで、実績内容を県に報告する予定だ。
困窮家庭に生理用品を直接渡す機会があった。女性ばかり5人の家族。経済的負担はばかにならない。「本当に助かる」。ほっとしたように感謝を口にする姿が忘れられない。「生理の貧困なんて、本当にあるのか」と疑問に思った時期もあったが、「本当に困っている人の手に届いていると実感できた」。
トイレに設置している生理用品のそばには性やドメスティックバイオレンス(DV)などに関する県内の相談窓口を紹介するポスターも貼っている。「困ったとき、『相談しよう』という選択肢を増やすことができたら」。優しく、力強く、そう言った。