急がば回れ

 今いる場所と目的地を入力したら後は「検索」をクリック…スマホの“乗り換え案内”は知らない土地での移動に欠かせないツールだが、とても不自然なルートを一緒に教えてくれることがある。まるでこの人の小説のトリックのような▲トラベルミステリーの第一人者、西村京太郎さんが亡くなった。「さくら」「あかつき」「路面電車と坂本龍馬」…作品リストには長崎ゆかりのタイトルも多い▲新刊が出ない月が珍しく感じられるほどの多作で知られたが、驚異的な執筆スピードとは裏腹にローカル線ののんびり旅を愛した。思えば〈AからBへ移動するのに一見、遠回りのCを経由する方が速い〉-が常に謎解きの中心にある時刻表ミステリーは「急がば回れ」の物語だ▲〈鈍行列車に乗ると、4人掛けのボックス席で、地元のおばあちゃんが「どこ行くの」なんて話し掛けてきて、みかんをくれたり…〉-そんな旅の楽しさを若者たちに説いていたことを前に本欄で紹介したことがある▲鉄道の新しい路線や新型列車がデビューすると必ず「新作の題材に」と売り込みがあったという。ただし「殺人現場にはしないで」と注文が付くことも▲亡くなる少し前に、西九州新幹線の開業日が決まった。9月。お元気なら取材の旅を楽しみにしておられたはずだ。(智)

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