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長崎県西彼時津町日並郷の町道脇に、住民らが十数年、手をかけ見守り続けている水路がある。そっとのぞくと、オタマジャクシやメダカがいっぱい。国道や住宅地に近い「まちなか」にあり、かつてはポイ捨てごみのたまり場だった。今ではカスミサンショウウオなどの希少生物が毎年山から産卵に下りてくる。住民らの行動と愛情で新しい命を育む環境が保たれている。
住民らが手入れする水路は幅約1.7メートル、長さ約70メートル。水深20~30センチ。近くに住む小林洋海さん(70)、請田福吉さん(88)によると、17、18年前まで水はあまり流れておらず、弁当容器や空き缶などごみがいっぱいだった。見かねた2人は「片付けようか」と掃除を始めたという。
水路がきれいになると、ごみを捨てる人は減った。少ないながら流れる水をせき止めて町内の田んぼからメダカを移し、水路の一角にショウブを植えた。
水が減ると慌てて水道水を足した。それを知った近くの建設機械リース会社、三幸リースが高台の川から約300メートルのホースで水を引いてくれ、現在のような“掛け流し”のビオトープになった。
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約15年前の真冬、小林さんは水中に見たことのない卵塊を発見した。「寒い季節に何の卵だろう」。水路を所有する町に相談すると、県立高校の生物教諭だった松尾公則さん(70)=長崎女子短大教授=が見に来てくれた。卵塊は県の準絶滅危惧種、ニホンアカガエルと判明。県の絶滅危惧Ⅱ類カスミサンショウウオの卵塊もあった。
以降も産卵は続き、小林さんは今年も2月にそれぞれの卵塊を確認。「水路のごみを拾い、花を植え、水を入れたら、こういうことになった。自然の力ってすごいよね」と目を輝かせる。トンボの羽化も見られるほか、海に近いため、いつの間にかテナガエビやモクズガニもすむように。シラサギやカワセミが餌を狙うこともあるという。
水路に約10年通う松尾さんは、産卵の水場を探すニホンアカガエルなどにとって「“砂漠の中のオアシス”だったのでは」と推測する。「放っておくと1年で駄目になるだろうが、いつ行っても水がきれいで見ていて楽しい」と行き届いた管理に感心する。
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2人は水路内に光が届くように浮草の除去など週2回は掃除する。オタマジャクシがカエルに成長して山に帰れば、水路の底に堆積した土を上げる。力仕事もあり、興味がある人に少しでも手伝ってもらえれば心強いという。
「近所の皆さんも気を付けて見守ってくれているから維持できている」と請田さん。小林さんは「生き物を見にきた人の癒やしになればうれしい」と話し、きょうも笑顔でまちなかの小さい自然を見守っている。
カスミサンショウウオは環境省が特定第二種国内希少野生動植物種に指定。卵塊や幼生を含め、販売などを目的とする捕獲などは原則禁止されている。