いつもより喜びの大きい勝ち点3 終盤10人のFC東京がC大阪を破る

J1 C大阪―FC東京 前半、先制ゴールを決め喜ぶFC東京・紺野(中央)ら=ヨドコウ

 簡単に手に入れたものより、苦労して得たものに、人はよりありがたみを感じるものだ。3月6日のJ1第3節、セレッソ大阪対FC東京。退場者を出し、数的不利になりながらも勝ち点3をもぎ取ったFC東京は、さぞかし充実感があったことだろう。

 チームづくりとしては、かなり難しい状況での試合だったことが予想される。2月18日の川崎フロンターレとのリーグ開幕戦後に、新型コロナウイルス感染者が続出。20日から1週間にわたって活動休止を余儀なくされたからだ。

 シーズン当初というのはどのチームもそうだろうが、キャンプでつくり上げてきたものを公式戦で試して戦術やシステムを固めていく。特にアルベル監督は、今季着任したばかりだ。その意味でリーグ第2節とルヴァン杯、合わせて2試合の延期は痛かった。しかし、チームに感染者が相次いだとあっては、それも致し方ない。

 開幕戦で王者川崎に0―1と敗れたとはいえ新生FC東京の評価は高かった。これまでは守備的で、必ずしも楽しいとはいえないサッカーを展開してきたイメージがある。それが短期間で変わることができるのか。少なくともセレッソ戦を見る限り、かなり変わったというのが正直なところだ。

 まず目についたのは守備。昨年までは失点しないための守備だった。それが攻めるための前段階として、自分たちのボールにするための守備に変わっていた。3トップを形成するブラジル出身のディエゴオリベイラとアダイウトン、さらに右翼の紺野和也。さらにインサイドハーフに入った安部柊斗と高卒ルーキーの松木玖生が前線から恐ろしい勢いで連動したプレスをかける。それも相手の攻撃を遅れさせるディレーではなく「狩る」という表現に近い。圧を感じるセレッソの守備ラインも、これでは余裕を持ってパスを散らすことは難しい。この試合、唯一の得点が生まれたのも強烈なプレスが発端だった。

 前半23分、一度はアダイウトンが失ったボール。FC東京から見て左タッチライン付近でセレッソの松田陸が自陣方向を向いてボールを処理しようとした瞬間だった。背後から猛然と襲いかかったのがスーパールーキー松木だ。あまりの勢いでボールに乗るようにして転倒しながらも奪い取る。そのこぼれ球をアダイウトンがフォローした。

 これは約束事なのだろう。セレッソの守備網の空白地帯を狙ったアダイウトンのマイナスのクロス。グラウンダーで送られたパスを、ディエゴオリベイラがスルーする。右サイドから侵入した紺野は、完全にフリーでラストパスを受けることができた。

 紺野のフィニッシュもまた見事だった。左利きの紺野が体を開いた状態で内側にトラップしたのがGK金鎮鉉(キム・ジンヒョン)を惑わした。通常の左足キックならば左側にシュートがくる体の向きだった。ところが、紺野は体をひねってゴール右にシュートを放った。「アダ(アダイウトン)が良いボールを出してくれたので」。そのトラップからシュートに至るまでの早さと正確性は見事の一言に尽きた。

 先制した後もFC東京の攻撃的な守備はさえた。前半36分にはセレッソの奥埜博亮から、再び松木がボールを強奪しカウンター。アダイウトンのシュートはGKのファインセーブにあったが、相手陣内でボールを奪うシュートカウンターが威力を発揮した。前半40分にセレッソの奥埜に決定的なヘディングシュートを放たれたが、GKヤクブ・スウォビィクが右腕の神がかりの反応で防ぐ。それ以外は完全にFC東京のペースだった。

 その主導権が相手に渡るきっかけになったのが、中盤でアンカーを務めていた青木拓矢が2回目の警告を受け、後半16分に退場となったことだった。それでも、セレッソが圧倒的に試合を支配したわけではなかった。それは、FC東京のピッチに残った10人が失った1人分の運動量を少しずつ補ったからだろう。その中でも松木はチーム最多の12.579キロを走行。両チームで、これを上回ったのはセレッソのキャプテン清武弘嗣だけだった。

 そして、攻めるための守備から、失点しないための守備へ。FC東京にはフィッカデンティ、長谷川健太時代に植え付けられたものが残っている。さらに最終ラインを破られたときには、リーグ最高峰のGKスウォビィクが控えている。後半33分の壁の下を抜けてきた山中亮輔の直接FK。39分にペナルティーエリア正面のライン上から放たれた清武のボレーシュート。同点ゴールになってもおかしくなかったセレッソのビッグチャンスは、ことごとくポーランド代表歴を持つ「門番」によってはじき出された。前半のヘディングシュートも含め、そのセーブをする姿をみれば、これほど守護神という表現が当てはまるGKもいないだろう。

 「自分も含め全員が集中力を切らさずにプレーした結果が勝利につながった」と話す優等生。もちろん、正しい。ただ、間違いなくスウォビィクがいなければ、この勝利は難しいものだった。それを考えれば、FC東京は勝ち点を確実にその手でもたらしてくれる素晴らしい補強をしたといえる。そして、松木。物おじしない、ベテランのようなプレーを見せる18歳のルーキーは今後どのような成長を見せるのだろうか。注目していきたい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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