ハッブル宇宙望遠鏡のカメラ「ACS」取り付けられてから20年目を迎える

【▲ 銀河「UGC 10214」、通称「おたまじゃくし銀河」(Credit: NASA, H. Ford (JHU), G. Illingworth (UCSC/LO), M.Clampin (STScI), G. Hartig (STScI), the ACS Science Team, and ESA )】

2002年3月7日、スペースシャトル「コロンビア」による「ハッブル」宇宙望遠鏡の4回目のサービスミッション(STS-109)にて、新たな観測装置として「掃天観測用高性能カメラ」(ACS:Advanced Camera for Surveys)が取り付けられました。

ハッブル宇宙望遠鏡にACSが取り付けられてから今年2022年で20年目を迎えたことを記念して、ACSによって撮影された天体画像の幾つかをアメリカ航空宇宙局(NASA)が改めて取り上げています。そのうちの幾つかをご紹介しましょう。

冒頭の画像はその一つで、ACSが取り付けられてから間もなく撮影された銀河「UGC 10214」です。1966年に天文学者のホルトン・アープがまとめた特異銀河(特異な形態を持つ銀河)のカタログ「アープ・アトラス」には「Arp 188」として収録されています。

「りゅう座」の方向およそ4億2000万光年先にあるUGC 10214は、自身の円盤部の幅よりもずっと長い尾を伸ばした印象的な姿をしており、「おたまじゃくし銀河(Tadpole Galaxy)」とも呼ばれています。UGC 10214の長い尾は、別の銀河との相互作用によって形成されたと考えられています。

関連:長さ28万光年の尾を伸ばした特異な銀河「Arp 188」

【▲ 2004年に公開された「ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド(HUDF)」(Credit: NASA, ESA, S. Beckwith (STScI) and the HUDF Team)】

次の画像は、2004年に公開された「ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド」(HUDF:Hubble Ultra Deep Field)です。

天の川銀河の星が少ない「ろ座」の方向をACSで撮影したこの画像には、約130億~10億年前の宇宙に存在していた1万近い銀河が写っています。はるか彼方の銀河を捉えるために、ハッブル宇宙望遠鏡は2003年9月から2004年1月にかけて総露光時間11.3日に及ぶ800回の観測を行いました。

ちなみに、ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールドは2009年に取り付けられた「広視野カメラ3」(WFC3)を使って再度観測されており、2014年に「ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド2014」(HUDF 2014)として新たな画像が公開されています。

関連:聴いてみよう! ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した無数の銀河を「音」に変換

【▲ 2004年2月に撮影された「いっかくじゅう座V838星」(Credit: NASA and The Hubble Heritage Team (AURA/STScI) )】

続いては「いっかくじゅう座」の方向約2万光年先の変光星「いっかくじゅう座V838星」(V838 Monocerotis)です。赤色超巨星とされるこの星では、2002年に一時的な増光が観測されました。NASAによると、増光の原因は今もはっきりしていないといいます。

V838星から放射された光は地球に直接届くものもあれば、星を取り囲む塵に反射されてから地球に届くものもあります。増光時に星から放射された強い光は、星の周囲に広がる塵を照らしつつ外側に向かって伝わっていきました。その様子はハッブル宇宙望遠鏡によって「光のこだま(light echo)」として観測されています。

繰り返し行われたハッブルの観測によって、あたかもV838星を取り囲む塵の殻を内側から外側へとスキャンしたかのような、時間とともに変化する「光のこだま」の様子が捉えられました。ACSが撮影したこの画像では、2004年2月時点での「光のこだま」が示されています。

関連:光の殻を破って現れた宇宙の宝石「V838」

【▲ ACSで撮影された「フォーマルハウト」周辺の様子(Credit: NASA, ESA, P. Kalas, J. Graham, E. Chiang, and E. Kite (University of California, Berkeley), M. Clampin (NASA Goddard Space Flight Center, Greenbelt, Md.), M. Fitzgerald (Lawrence Livermore National Laboratory, Livermore, Calif.), and K. Stapelfeldt and J. Krist (NASA Jet Propulsion Laboratory, Pasadena, Calif.))】

最後は地球から約25光年先、「みなみのうお座」の一等星「フォーマルハウト」(Fomalhaut)周辺の様子です。フォーマルハウトそのものからの光はステラーコロナグラフを使って遮られていて、星の周囲にある塵のリングが捉えられています。

画像の右下には塵のリングの近くで見つかった天体の拡大画像が挿入されています。2004年と2006年にACSが撮影したこの画像をもとに、フォーマルハウトを公転する太陽系外惑星「フォーマルハウトb」を発見したとする研究成果が2008年に報告されていました。

ところが、ハッブル宇宙望遠鏡はその後もフォーマルハウトを繰り返し観測したものの、2014年までにフォーマルハウトbは姿が見えなくなってしまいました。現在では、フォーマルハウトbとされた天体は直径200km程度の微惑星どうしが衝突したことで生じた塵の雲だったと考えられています。

関連:系外惑星「フォーマルハウトb」は存在しておらず、塵の雲だった?

【▲ STS-109ミッションのクルーによるハッブル宇宙望遠鏡へのACS取付作業の様子(Credit: NASA)】

なお、ACSは広い視野を撮影する「WFC(Wide Field Channel)」、高解像度撮影を行う「HRC(High Resolution Channel)」、紫外線を捉える「SBC(Solar Blind Channel)」という3つのチャンネルを備えています。このうちWFCとHRCは、2006年から2007年にかけて段階的に発生した電気系統の故障によって使えなくなりました。HRCは復旧できなかったものの、WFCはスペースシャトル「アトランティス」による5回目にして最後のサービスミッション(2009年5月のSTS-125)で修理されて、現在も観測に使われ続けています。

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Source

  • Image Credit:
  • NASA \- Hubble’s Advanced Camera for Surveys Celebrates 20 Years of Discovery

文/松村武宏

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