『豪州と中国戦争前夜』|崔大集 韓国語版『「目に見えぬ侵略」「見えない手」副読本』(『豪州と中国戦争前夜』)が遂に発刊!日本と同様、中国による目に見えぬ侵略に対して警戒感が薄い韓国国民。その中で大韓医師協会の崔大集(チェ・デジプ)前会長が本書を激賞!その理由とは。

釜山国連記念公園に眠る豪州兵士

韓国語版『「目に見えぬ侵」「見えない手」副読本』(『豪州と中国戦争前夜』)
韓国語版『「目に見えぬ侵」「見えない手」副読本』(『豪州と中国戦争前夜』)

豪州(オーストラリア)は英連邦国家の一つで、1950年に朝鮮戦争が勃発するや否や国連軍として陸軍と海軍、そして空軍を派遣した韓国の友好国の中の友好国である。当時、総員17,164人の豪州軍が参戦、うち340人が死亡し、1,216名が負傷した。戦死者の多く(281人)は今も釜山国連記念公園(墓地)に眠る。

このような豪州ではここ数年、中国共産党が行ってきた政財界および学界などへの浸透・転覆工作問題が大きな問題となってきた。

豪州による中国に対するコロナウィルス発生源の公式的な調査要求をはじめ、豪中間の数年に渡る深刻な貿易葛藤、豪・英・米が主導するオーカスの結成などは偶然的に起ったわけではなく、非常に複雑で深刻な背景があったのだ。

中国共産党による豪州および世界に対する工作活動を明らかにし、この問題で世界最高の理論家として注目される学者が、豪州チャールズ・スタート大学(Charles Sturt University) 教授のクライブ・ハミルトンである。彼の関連著書『目に見えぬ侵略(Silent Invasion)』と『見えない手(Hidden Hand)』は、2021年上半期に韓国でも翻訳出版されベストセラーとなった。

しかし、膨大な分量と馴染みがない題材のため、本の売り上げ部数に比べ韓国内の知識層、そして市民社会での議論はそれほど活発化されなかった。日本でも似た様な現象が起きたのか、クライブ・ハミルトンの原著を新たに整理し紐解いた解説版が出版された。その本こそが『豪州と中国戦争前夜(豪州と中国の予定された戦争 )』(原題:『「目に見えぬ侵」「見えない手」副読本』)である。

国連の中国化

中国共産党の世界覇権問題は、2010年頃から国際社会で大きな話題となり、主に米中覇権闘争の文脈でこの問題を扱う書籍は既に国内外で多数出版されてきた。そして中国共産党の海外スパイ工作についての議論はこれまで無きにしも非ずであった。その中で特定の国家において中国共産党が、いかに浸透・転覆工作を行うかを包括的に扱う試みはほぼ無かったが、クライブ・ハミルトンの著作が大きな注目を集めた理由は、そのような試みが出版分野で初め行われたことにある。

彼の著作には中国の脅威論を軽視して、最終的に「マフィアの頭目ヴィトー・コルレオーネの前に立たされボーイスカウト」のようになってしまった豪州と北米、欧州の赤裸々な実像が盛り込まれた。

本書『豪州と中国戦争前夜』は、クライブ・ハミルトンが『目に見えぬ侵略』と『見えない手』で争点化した中国共産党の豪州および世界浸透・転覆工作を、計40種のテーマに分類し解説している。「大学を監視する中国人留学生たち」、「順に買収されている豪州の港」、「ブレーキのない国連(UN)の中国化」、「ダライ・ラマに会えば経済制裁を受け対中国輸出が減少する」、「メディアと記者の弱点を突く資金提供と接待旅行」、「豪州全土の電気が消える日」など……各タイトルだけでも既に侵略戦争に関する報告書を彷彿とさせる。

クライブ・ハミルトンは、原著では全て実名で批判したが、副読本ではそれらに加え実物の写真まで掲載している。したがって、原著よりも豪州や北米、欧州の状況が読者にはより実感出来るであろう。

クライブ・ハミルトンが告発する中共の浸透・転覆工作は文字通り総体的である。豪州の政治家やジャーナリストは中国共産党の後援金と広告料、旅行資金支援、そして引退後のポスト提供などを活用した「グルーミング」に引き摺られ、中国人よりも中国の利害関係のために政治活動やメディア活動を繰り広げた。中国人留学生に依存した豪州の大学らは、学内における中国への批判的議論そのものを遮り、結局は香港民主化を叫ぶ自国民、在学生らを懲罰することはもちろん、豪州を狙う中国兵器の開発に協力する事態にまで陥った。さらに、豪州の各港や農地は中国企業家らに順次買収され、中国の軍事戦略拠点、食糧生産基地に変貌していった。

ところが、これは豪州だけの話ではなかった。同じ様相は北米と欧州各国でも現れた。実際、中国に対する各国の過剰な低姿勢外交こそ、中国共産党の浸透・転覆工作の現実を助長しているのだ。ジョン・マッカラム駐中国カナダ大使は、カナダの外交官でありながらカナダを代弁せず、むしろカナダ政府に対し中国の立場を理解するよう呼びかけた。中国の人権運動家、劉暁波にノーベル賞を授与したノルウェーでは、ボルゲ・ブレンデ外務部長官が事実上反省、謝罪する内容の声明を中国で発表した。ダライ・ラマと面談した英デーヴィッド・キャメロン首相も、今後はダライ・ラマに会わないとの約束を中国当局と交わし、中国訪問を実現させた。

国際連合(UN)、世界貿易機関(WTO)などの国際機関も元来、世界各国の利害関係を代弁すべき組織であるにもかかわらず、中国共産党の利害関係を代弁する組織に変貌した。コロナウィルスの発生初期に、あたかも中国のパペット(操り人形)のように踊らされ、事態をより深刻化させた世界保健機構(WHO)の不可思議な振る舞いを記憶に新しい。新疆ウイグル自治区でジェノサイドを行なう中国が、国連人権理事会(UNHRC)加盟国に堂々と進出したナンセンスは、「中国特色国際機構」の奇怪な現実を克明に示している。

日本の危うい「ヘイトスピーチ解消法」

米中貿易葛藤の象徴であるファーウェイ問題も取り上げざるを得ない。ファーウェイは技術を盗み成長した企業と言っても過言ではないが、真に恐ろしい点は世界最大の通信企業の一つであるこの会社が、中国共産党に各種顧客情報を「バックドア」(裏口)を通じて回しているという疑惑さえあるという点である。

創業主(任正非)の財力と企業の不透明な所有構造、財務構造は競争企業と世界の人々の恐怖心をさらに増幅させている。ファーウェイの孟晩舟副会長は、米国の対イラン制裁問題と関連した詐欺問題によってカナダで逮捕され2年余り自宅軟禁生活を送ったが、呆れることに中国が一般のカナダ国民を拘束する人質外交を繰り広げ、ファーウェイ副会長は釈放された。テロ組織がやりそうなことを何ら躊躇なくやるのが中国共産党であり、中国企業はそうした中国共産党の傘下組織に過ぎないという点をファーウェイは如実に示している。

中国共産党のこれら全ての横暴の背景には、「一帯一路」や「中国の夢の実現」がある。中国は全世界の「人、物、資金、情報」が往来する全ての要素を掌握しようと企み、これらを通じて唐や清朝時代のような中華帝国の栄光を再現しようとしている。

実は「中華帝国の栄光」という「叙事詩(narrative)」に対する信念と中国共産党の影響力工作は無関係ではない。

そうして中国が作る新たな国際秩序によって、第二次世界大戦以後、米国が主導してきた国際秩序を塗り替えながら、自分たちの統治の正当性を永久化しようとするのが中国共産党の真の狙いである。そのことをクライブ・ハミルトンは『目に見えぬ侵略』と『見えない手』を通じて告発したのだ。

『豪州と中国戦争前夜』は、基本的に日本の読者を一次読者として書かれた解説書である。しかし、韓国の読者もこの本を十分に興味深く読むことが出来ると考える。なぜなら韓国と日本、豪州の三国は共にインド・太平洋地域で米国の同盟国として対中国外交、安全保障問題の利害関係をほぼ共有しており、また何よりも中国共産党が崩そうとする自由・人権・法治の民主的価値観を全面的に共有している国家であるからだ。

ただしクライブ・ハミルトンによると、中国共産党が特に卑劣な点は多元的・開放的社会の弱点を悪用することにあると言う。その手法の一つが「中国共産党」に対する批判と一般の「中国人」に対する批判を等値させ、自由民主主義を抹殺しようとする中国共産党の試みへの批判を一括して「嫌悪」に分類し、無力化させてしまうことである。

豪州も2017年までは中国に対する批判が事実上不可能で、クライブ・ハミルトンの『目に見えぬ侵略』も出版社が刊行を放棄するなど、紆余曲折を経なければならなかった。このような現実は豪州のみならず日本も同じである。

日本もいわゆる「ヘイトスピーチ解消法」などが中国共産党批判に対する一つの足枷として作用する。日本世論を概ね主導する大メディアの朝日新聞や毎日新聞は左派的性向であるにもかかわらず、中国の人権問題に対する批判は多く見られない。日本ではむしろ『月刊Hanada』など保守派媒体が新疆ウイグル自治区、チベットなどの少数民族の人権問題や台湾独立問題に関して議論を主導している状況が見てとれる。

「炭素」よりも「中共」を拒絶せよ

国家情報院が事実上機能していない状況を勘案すれば、韓国は日本や豪州よりも深刻な中国共産党の浸透・転覆工作に籠絡されている公算が大きい。「5・31地方選挙を控え揺れる仁川チャイナタウン」(「東亜日報」)、「『大切な一票、胸が一杯です』」(「大田日報」)…外国人に投票権を最初に付与した2006年地方選挙当時、韓国メディアの見出しである。あれから15年が経った現在、今年の地方選挙で「中国人有権者」はなんと全国に10万人いる。ソウルだけでも3万5千人でこれは接戦となった時、キャスティングボートを握ることが可能な水準である。韓国の代議民主体制崩壊の危機に至るまで、いかなる機関もいかなるメディアもこの問題の危険性を正しく警告しなかった。これは何を意味するのか。

一部の韓国人は韓国と中国の対等な関係、そして韓国の自由民主体制の存続に対し悲観的な主張をする。特に、中国の市場規模と経済成長を語りながら、中国の世界覇権国化は必然であり、韓国はもちろん人類自体が今後中国に追従しなければ生きることができず、歴史の大勢に従わなければならないと語る。果たしてそうだろうか。彼らは中国に対する大多数の韓国人と、人類の意志を余りに過小評価しているのではなかろうか。

事実、クライブ・ハミルトンは中国共産党の問題以前に長年気候変動問題を研究し、石油文明に対し強い批判を行なってきた学者でもある。石油文明から自由になることと中国から自由になることの中で、果たしてどちらがより容易だろうか。クライブ・ハミルトンは明らかに後者と答えるだろう。実際、人類は現在、国際的連帯を通じて石油文明からも果敢に脱出している。原子力、再生可能エネルギー、電気自動車(EV)など数多くの試みがなされており、成果を上げている。

環境危機の前で我々が、例えば自動車も喜んで拒否できるなら、なぜ安保危機の前で中国産車両を拒否することが出来ないのか。いかなる基準で考えても、「中共」を拒絶する事が「炭素」を拒絶することよりも容易い。

豪州は、最終的に5G事業でファーウェイを排除することとした。中国と締結した「一帯一路」業務協約も順次破棄している。コロナウィルス発生源に対する調査を全世界で最初に要求したのも豪州である。

南シナ海、新疆ウイグル自治区、台湾問題においても豪州は随時中国に批判的な声を公に上げている。このような豪州を米国はオーカスで大きく応え励ました。

豪州は事実、韓国よりも大きい貿易規模で中国に依存してきた国である。人口も2,500万で韓国の半分に過ぎない。豪州も出来るのに、中国とわずか70年前はもちろん、それ以前から数多く全面戦争を繰り広げ自己アイデンティティを守ってきた経験のある韓国が、なぜ中国に立ち向かうことが出来ないのか理解に苦しむ。今後、韓国こそ「自由の防波堤」を越え「自由の波濤」となり、北京と平壌を一掃する国として全世界のモデルとならねばならない。

『目に見えぬ侵略』と『見えない手』に続き、『豪州と中国戦争前夜』が大韓民国で中国共産党浸透・転覆工作問題に対する議論活性化、そして韓国民の中国共産党に立ち向かう意志高揚の契機となることを期待する。(翻訳/黄哲秀)

崔大集(チェ・デジプ)

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