「新庄野球の申し子」に覚醒の予感 日本ハム・万波中正

広島戦の8回、左中間に本塁打を放つ日本ハム・万波=マツダ

 指導者が代われば、チームは変わる。チームが変われば、新たなスターが生まれる。

 「ビッグボス」新庄剛志監督を迎えたプロ野球の日本ハムが、オープン戦を快走している。その中心で輝きを放っているのが万波中正だ。

 192センチ、96キロの巨体から放たれる打球は規格外の飛距離を生む。

 3月12日にマツダスタジアムで行われた広島とのオープン戦では、8回に試合を決める一発をバックスクリーン左にたたき込んだ。

 12球団単独トップに立つ5号。しかもこの時点では直近の7試合で5本塁打、11打点と爆発力も怪物級と言っていい。13日現在、打率も3割5分を超え、チームでの信頼度も日に日に増すばかりだ。

 コンゴ共和国出身の父と日本人の母を持つ万波は、2018年のドラフト4位で入団。横浜高時代から強打、強肩、俊足の万能選手として将来性を高く評価されていた。

 ようやくプロの水に慣れてきた昨年は、2軍で17本塁打、1軍での出場も徐々に増えて5本のアーチを記録。今季は、1軍定着とレギュラーポジションの獲得へ勝負の年である。

 チームは、大きな転換期を迎えている。10年間にわたり指揮を執った栗山英樹前監督が勇退。後任には現役時代に「宇宙人」と呼ばれた新庄監督が就任した。

 さらに昨年オフにはチームの主軸を担ってきた西川遥輝(現楽天)、大田泰示(現DeNA)ら3選手を「ノンテンダー契約」の名のもとに放出。要はお払い箱のような扱いにファンの間からも疑問の声が上がった。

 昨夏には主砲の中田翔も巨人に移籍。3年連続5位に沈むチームから、かつての4番や盗塁王が消えていったのだから大手術は必要不可欠である。

 ど派手な言動でキャンプの話題を集めた新庄監督だが、その指導法は意外にも手堅い。「野球は守備から」と語るように、内外野の隙のない守備練習に多くの時間を割いている。

 オープン戦が始まるとスクイズも多用、いかに効率よく得点するかを模索している。

 くじの抽選箱を持ち込んで先発メンバーを決めるなど、首を傾げたくなる用兵も、実は固定観念を捨て、幅広い人材をテストする狙いがある。

 逆に言えば、絶対的なレギュラーがいないからこそ、誰にでもチャンスはあるという意識改革をナインに植え付けようとしているのだ。

 挑戦者として明るく積極的に。そんな新庄イズムに現時点で最もフィットしているのが万波だろう。

 5号本塁打を放った広島戦でも、5打席のうち3三振にエラーも記録している。昨年までなら途中交代を命じられてもおかしくない。だが、失敗を恐れずにミスを取り返すチャンスが与えられているから結果を残せる。

 打撃開眼のきっかけもまた、新庄監督のアイデアによるところが大きい。

 今年の沖縄キャンプには多くの臨時コーチや講師が招かれた。中でも万波の心に刺さったのが室伏広治スポーツ庁長官による教えだったという。

 陸上ハンマー投げの五輪金メダリストである室伏氏は、体をいかに効率よく使って遠くへ飛ばすか。そのためには脱力の後に一気に爆発力を生むかが重要と説く。競技は違っても、本塁打を打つために必要な体の動きに新たな発見が生まれた。

 オープン戦も終盤にさしかかるとテストの段階は終わり、開幕オーダーを固めていかなければならない。

 昨年もチーム打率、本塁打はリーグワースト。特に本塁打は78本と長打力不足は明らかだ。

 「レギュラー確定は近藤(健介)だけ」という指揮官の頭の中には新外国人のレナート・ヌニエスや、昨年もクリーンアップを任されるケースが目立った野村佑希らが中軸候補だったろうが、その野村は足首の捻挫でリタイア。ヌニエスの力量も現時点では未知数となれば、いよいよ万波への期待がかかる。

 日本ハムでは過去に近藤や西川らの高校出の選手が4年目にブレークして、不動の地位を手にした歴史がある。

 もっと付け加えるなら、新庄監督も阪神時代の4年目に初めてレギュラーになり、23本塁打を記録している。高校を出てから4年目の「覚醒の法則」に万波も当てはまるのだろうか。

 開けてびっくりの新庄劇場に21歳の若者の覚醒。この勢いのままオープン戦を完走できれば、レギュラー定着どころか開幕戦で「4番・万波」のアナウンスがあっても驚かない。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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