新時代のF1シーズンプレビュー。ビジュアルで比較する2022年マシンの変更点と新ラインアップ

 2022年シーズンのF1世界選手権は3月18〜20日に開催されるバーレーンGPから全23戦によるシーズン開幕を迎える。技術レギュレーションの変更によりマシンの形状も大きく変わり、新時代の訪れを予感させる2022年シーズン開幕を前に、あらためて2021年シーズンからの技術レギュレーションの変更点、そして開幕直前に変更のあったドライバーラインアップ、開催スケジュールを整理してみよう。

■ビジュアルで見る2021年からの変更点

 2022年、F1車両の技術レギュレーションは大きな変革を迎えた。FIA(国際自動車連盟)は近年追い抜きが難しいF1車両のオーバーテイクを促進するべく、フラットボトムからダブルトンネル型のフロアを投入することを決定した。2021年まで車体下面のダウンフォース発生を抑えていたものの、下面に2本のトンネルが設けられたフロアを導入することでベンチュリー効果が発生するグランド・エフェクト・カーとなった。なお、大幅なレギュレーション変更に伴い、車両の最低重量が43kg引き上げられ、3月14日時点で795kgとなっている

2022年F1バルセロナテスト マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
2022年F1バルセロナテスト レッドブルRB18のリヤビュー

 F1では1983年以来、フラットボトム規定が施行されていたため、グランド・エフェクト・カー導入は1982年シーズン以来となる。近年、オーバーテイク促進機構であるDRSを搭載するも、依然オーバーテイクが難しかったF1。グランド・エフェクト・カー化に至る技術レギュレーションの大幅な変化はオーバーテイク促進に大きく寄与することになりそうだ。

 また、フロアのみならず、オーバーテイク促進に向けて2021年まで5枚まで装着できたアッパーフラップを4枚に。ウイング本体もノーズから吊り下げるのではなく、ノーズに直付けされることになり、装着位置も高くなった。さらに、フロントウイング両端の翼端板も三角形状となり、フロントセクションの見た目は大きく変化した。

スクーデリア・フェラーリの2022年型マシン『F1-75』/フロント
フェラーリの2021年型F1マシン『SF21』正面フロント

 また、左右のフロントタイヤ内側には乱気流発生を抑制するべく、タイヤフィンが装着される。その代わりに、これまで各チームの個性を光らせた複雑な形状のバージボードは全面禁止となった。

スクーデリア・フェラーリの2022年型マシン『F1-75』
フェラーリの2021年型F1マシン『SF21』 正面斜めアップ

 リヤセクションも変化に富んでおり、なかでもリヤウイングは大きく、そしてより高い位置にマウントされた。メインプレートとDRSで可動するフラップの2枚構成に変わりないが、翼端板上部がなくなっている。これはリヤウイングで発生する乱気流を軽減するためのものだ。

スクーデリア・フェラーリの2022年型マシン『F1-75』/リヤ
フェラーリの2021年型F1マシン『SF21』 正面斜めリヤ

 これらの規則導入で、後方へ向けた乱気流の影響が少なくなり、接近戦の際も後続車はダウンフォースを保持できるようになるというものだ。しかし、空気に敏感なグランド・エフェクト・カーとなったことでドライビングはよりハードなものになることも予想される。開幕戦では昨年以上のオーバーテイク合戦を期待するとともに、フリー走行から各マシンの挙動、各ドライバーのステアリング裁きに注目して見ていきたいところだ。

 昨シーズンの車両との違いを明確にするべく、フェラーリの2022年の車両『F1-75』と、2021年の車両『SF21』を例に諸元比較を下記に掲載する。

■フェラーリ2021、2022年車両の主要諸元比較

シーズン 2021 2022

モデル名 SF21 F1-75

総重量(水/オイル/ドライバー含む) 752kg 795kg

シャシー カーボンファイバー、ハニカムコポジット カーボンファイバー、ハニカムコポジット

ブレーキ ブレンボ製、油圧制御式セルフベンチレーションカーボンディスク(フロント/リア) ブレンボ製、油圧制御式セルフベンチレーションカーボンディスク(フロント/リア)

キヤボックス フェラーリ製8速縦置き(前進8速+後退1速) フェラーリ製8速縦置き(前進8速+後退1速)

フロントサスペンション プッシュロッド式 プッシュロッド式

リアサスペンション プルロッド式 プルロッド式

フロント/リヤホイール 13インチ 18インチ

 また、2021年シーズンまで13インチのタイヤホイールを使用してきたF1だが、2022年シーズンからは18インチタイヤホイールが導入される。なお、18インチホイールは日本のBBSジャパンが全チームに供給するが、大径化による空力的影響も鑑み、前後4本のホイールにはそれぞれホイールカバーが装着される。

 タイヤ外径は20mm増加するが、フロントの幅は60mm狭くなる(リヤ幅は変化なし)。これにより、これまでとは違ったタイヤの使い方、走り方が求められることになるだろう。各チーム、特にフロントタイヤに関するデータを取り直すことが求められるため、勢力図にも大きく影響するポイントとなりそうだ。

2021年F1アブダビGP 2021年の13インチF1タイヤと2022年に導入される18インチF1タイヤ

 そして、目に見えない変化も忘れてはならない。F1のサステナビリティへの取り組みに伴い、2022年シーズンからはバイオエタノールを10パーセント混合したE10燃料が使用される。こちらはワンメイクではなく、各サプライヤーが供給するものだ。E10燃料導入でエンジンパフォーマンスにどれだけの影響があるか、いかにパワーロスを補い、かつ信頼性を担保できるかが2022年シーズンのパワーユニット(PU)戦争の鍵となるだろう。

2019年シーズンのF1で使用したHondaパワーユニット『RA619H』

 2022年シーズンのF1ではメルセデス、フェラーリ、ルノー、そしてホンダのPUプログラムを引き継いだレッドブル・パワートレインズの4社がPUを供給する。メルセデスPUはメルセデス、マクラーレン、アストンマーティン、ウイリアムズの4チームが、フェラーリPUはフェラーリ、アルファロメオ、ハースの3チームが、ルノーPUはアルピーヌのみが使用する。

 そして昨年までホンダPUを搭載したレッドブル、アルファタウリの2チームは、レッドブル・パワートレインズからPUの供給を受けるかたちとなる。PUサプライヤーとしてのホンダはF1を去ることとなったが、引き続き、HRC(ホンダ・レーシング)を通じてレッドブル・パワートレインズの活動をサポートする。そのため、レッドブル、アルファタウリの車体にはHRCのロゴが掲げられている。

2022年F1バルセロナテスト レッドブルRB18のエンジンカウルとサイドポッド後部

 改めて、2022年シーズンのF1PUについて理解を深めるべく、フェラーリ製PU『066/7』の主要諸元を例に、2022年シーズンのPUの仕様を確認しておこう。

■フェラーリ製PU『066/7』の主要諸元

PU名称 066/7

排気量 1600cc

最高回転数 15,000

過給 シングルターボ

燃料流量 最大100kg/時

構成 V6 90°

ボア 80mm

ストローク 53mm

バルブ 4シリンダー

インジェクション 直噴 500bar

バッテリーパック 最小重量20kgのリチウムイオン電池

バッテリー最大容量 4MJ

MGU-Kの最大出力 120kW(163cv)

MGU-K最大回転数 50,000rpm

MGU-H最大回転数 125,000rpm

■2022年の新人は1名。開幕直前にマゼピンがハースを去る

 2022年、レッドブル、フェラーリ、マクラーレン、アルピーヌ、アルファタウリ、アストンマーティンの6チームがドライバー体制を維持。一方、4チームがドライバーラインアップを変更している。

 メルセデスにはバルテリ・ボッタスに変わりウイリアムズからジョージ・ラッセルが移籍。一方、メルセデスを離れたボッタスはアルファロメオに加入し、FIA F2からステップアップしてきた新人周冠宇とコンビを組む。ラッセルの離れたウイリアムズには、レッドブルのリザーブドライバーを務めていたアレクサンダー・アルボンが加入し、ニコラス・ラティフィとのコンビとなった。

ルイス・ハミルトン/ジョージ・ラッセル(メルセデス)
周冠宇/バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)
ウイリアムズ2022年型F1マシン『FW44』発表会でのニコラス・ラティフィとアレクサンダー・アルボン

 また、ハースはミック・シューマッハーとニキータ・マゼピンのコンビを継続する予定だったが、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、タイトルパートナーを務めたロシアのウラルカリとの契約を打ち切り、ウラルカリの共同オーナーの息子であるマゼピンとのドライバー契約を打ち切った。ハースはマゼピンに変わり、2020年まで同チームに所属していたケビン・マグヌッセンを起用することを決めた。

2022年F1バーレーンテスト1日目 ケビン・マグヌッセン(ハース)

■2022年F1世界選手権 ドライバーラインアップ(2022年3月14日時点)

No. Driver Team

44 ルイス・ハミルトン メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラワン・チーム

63 ジョージ・ラッセル メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラワン・チーム

1 マックス・フェルスタッペン オラクル・レッドブル・レーシング

11 セルジオ・ペレス オラクル・レッドブル・レーシング

16 シャルル・ルクレール スクーデリア・フェラーリ

55 カルロ・サインツ スクーデリア・フェラーリ

3 ダニエル・リカルド マクラーレンF1チーム

4 ランド・ノリス マクラーレンF1チーム

14 フェルナンド・アロンソ BWTアルピーヌF1チーム

31 エステバン・オコン BWTアルピーヌF1チーム

10 ピエール・ガスリー スクーデリア・アルファタウリ

22 角田裕毅 スクーデリア・アルファタウリ

5 セバスチャン・ベッテル アストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラワン・チーム

18 ランス・ストロール アストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラワン・チーム

23 アレクサンダー・アルボン ウィリアムズ・レーシング

6 ニコラス・ラティフィ ウィリアムズ・レーシング

77 バルテリ・ボッタス アルファロメオF1チーム・オーレン

24 周冠宇 アルファロメオF1チーム・オーレン

20 ケビン・マグヌッセン ハースF1チーム

47 ミック・シューマッハー ハースF1チーム

■3年ぶりの日本GPは10月9日。ロシアGPの代替大会は未定

 3月18〜20日に開催されるバーレーンGPに始まり、全23戦が開催される2022年のF1。すでに開催スケジュールは決定していたが、先述のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、9月23〜25日に予定されていた第17戦ロシアGPの中止が決定となった。3月14日時点で代替レースの発表はなされていない。

 待望の日本GPは10月7〜9日に三重県の鈴鹿サーキットで開催される。3年ぶりのF1、そして角田裕毅の初凱旋レースはどのような戦いとなるのだろうか。チャンピオン争いの行方とともに、こちらも楽しみにしたいところだ。

 大規模な技術レギュレーション変更を経て、F1の勢力図も変わることが予想される2022年シーズン。2021年中に開発リソースを2022年シーズンに向けたチームに利があることには間違いないが、レギュレーションの隙間を突いて速さを見せるチームも現れることになるだろう。そして、開幕戦を終えてからも各チーム積極的なアップデートを投入してくるに違いない。2021年とはまた違った開発競争が存分に繰り広げられる2022年シーズンからは、1戦たりとも目が離せない。

2019年F1第17戦日本GPのレーススタートシーン

■2022年F1世界選手権 カレンダー(2022年3月14日時点)

Round 日程 グランプリ(開催地)

1 3月20日 バーレーン(サクヒール)

2 3月27日 サウジアラビア(ジェッダ)

3 4月10日 オーストラリア(メルボルン)

4 4月24日 エミリア・ロマーニャ(イモラ)

5 5月8日 マイアミ(マイアミ)

6 5月22日 スペイン(バルセロナ)

7 5月29日 モナコ(モナコ)

8 6月12日 アゼルバイジャン(バクー)

9 6月19日 カナダ(モントリオール)

10 7月3日 イギリス(シルバーストン)

11 7月10日 オーストリア(シュピールベルク)

12 7月24日 フランス(ポール・リカール)

13 7月31日 ハンガリー(ブタペスト)

14 8月28日 ベルギー(スパ・フランコルシャン)

15 9月4日 オランダ(ザントフォールト)

16 9月11日 イタリア(モンツァ)

17 9月25日 ロシア/中止

18 10月2日 シンガポール(シンガポール)

19 10月9日 日本(鈴鹿)

20 10月23日 アメリカ(テキサス)

21 10月30日 メキシコ(メキシコシティ)

22 11月13日 ブラジル(サンパウロ)

23 11月20日 アブダビ(アブダビ)

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