2ペダル車での新たな挑戦。山野哲也が期待するこれからのジムカーナ「可能性はものすごく広がった」

 3月13日に筑波サーキット・コース1000で開催された、全日本ジムカーナ選手権第1戦において、2ペダル車両が対象のJG10クラスで『アルピーヌA110S』をドライブする山野哲也が優勝した。新たなクラス、新たな車両での挑戦が大いに話題を集めていた山野の勝利は、これからのジムカーナに大きな変化をもたらす可能性がある。

 全日本ジムカーナ選手権で、通算21回のチャンピオン経験を持つ山野が、2022年はJG10クラスにアルピーヌで出場することとなった。同クラスは、オートマチック(AT)限定免許で運転できる2輪駆動のP・PN・AE車両で競われる。すなわち2ペダル車両が対象となっているのだ。昨年から設けられたクラスではあるが、そこに山野が臨むからには何か意味があるはずだ。それを確かめるべく話を聞いた。

「自動車生産から約100年経って、クルマのメカニズムが変わってきているなかで、いちばん大きいのは3ペダルのクルマが極端に減少していて、国内で言うと1%しか作られていないのが現状です」と語った山野。

「さらに、レバー式のサイドブレーキがあって、サイドターンができるというのがジムカーナの醍醐味ですが、エレクトリック・パーキング・ブレーキ(EPB)が主流になってきて、新車だとそれができるクルマの方がレアになってしまいました」

「そうなってきた時に、これからジムカーナを存続させる、繁栄させるために、まずは自分が率先して出ていこうと。それで2ペダルの車両、しかもEPBの車両をあえて選びました」

「その上で、360度ターンとかヒール&トゥといった難しいテクニックを使わなくても走れるレイアウトにしてもらう。切り替えるのは早ければ、早いほどいいので」

 ある意味、山野は得意分野を自主的に封印してでも、ジムカーナに対して時代に合わせた変革を求めたことになる。そのあたり、JG10クラスに出場するドライバーの多くも感じているようで、最適解を求めて実に多種多様なエントリーがあった。

 山野のアルピーヌ以外にも、弟の山野直也が持ち込んだマクラーレン600LTやポルシェ911 GT3RS、ルノー・ルーテシアといった輸入車があれば、軽自動車のダイハツ・コペンまで計9台がエントリーし、なんと9車種が並んだ! こんな状況は、少なくても近年の全日本選手権にはなかった。

 さて、勝負の話なのだが、オーガナイザーの配慮によって他のクラスとは異なる、2箇所の360度ターンが除かれたコースレイアウトにおいて、山野は2位に3秒差をつける圧勝を収めた。180度ターンは2箇所設けられ、国産車はサイドブレーキが使えるが、それでもなおの結果である。

■「今までのジムカーナの概念を捨ててほしい」と山野

3位の安木美徳(ATSスノコBSスイフト4F4)
山野直也がドライブするマクラーレン600LT

「今日のリザルトだけ見ると、確かにいいタイムが出ているけれど、ここまでくるには相当な苦労がありました」と山野。

「まずは車種選択とタイヤ。このクラスは車種構成が非常に豊富であるのはいいことなのですが、ハイパワー車であればあるほど、この競技に向いたタイヤが存在しません。むしろスイフトなんかの方が、もっとも適したタイヤがあるんです」

「その点、A110Sというのは、ちょうど“間”で、ハイパワー車じゃないけどミドルサイズで、なおかつジムカーナにギリギリ適したタイヤが使えます。そのクルマで今週に入って、やっとセッティングが合うようになったという“運”もあったので、結果からすれば超正解にはなりました」

 しかし、必ずしもA110Sが万能ではないと山野は語る。「今回はコースを(他クラスと)分けてくれましたけど、分かれない可能性もあります。サイドターンした方が速いコースであれば、スイフトとかBRZが有利になるでしょうし、ハイスピードコースなら、ポルシェとかマクラーレンが有利になってくると思います」

 それでも山野は果敢に攻め続けるのだろう。そして2ペダル車両でのジムカーナ参戦を強く推奨した。

「2021年から始まったクラスですが、今年が実質“元年”になって、いろんな車両が出てきて、勢力図が見えてくるシーズンになると思います」

「もっといろんな車種に出てきてほしいし、ジムカーナをやったことのない人にもっとこの世界に入ってきてほしい。それが繁栄につながるところなので」

「今までの『スピンターンできなきゃダメ』、そういうのではなく、ヒール&トゥもいらない、AT限定免許でもできるというのが(JG10クラスの)魅力だと思うんです」

「僕のクルマもそうなんですが、P規定のクルマはタイヤとホイール、ブレーキパッド、ダンパーとスプリングしか速くなる要素のパーツは変えられない上に、JAF登録のない車両でも出られます」

「もしかしたら、何年か後には2ペダルでクラスが細分化されるかもしれません。サイドブレーキ付きとEPBで分けるとか……。いや、2ペダルの方が主流になっている可能性もあると思います」

「可能性はものすごく広がりました。とにかく今までのジムカーナの概念を捨ててほしい。新しいジムカーナが始まりました!」

 21度のチャンピオンが力強く明言した新しいジムカーナの世界。今後の発展が大いに楽しみな分野といえそうだ。

JG10クラスで優勝した山野哲也
山野哲也がドライブするアルピーヌA110S
クラス2位となった河本晃一(BSオーリンズBRZ)

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