<社説>広島県議ら一転起訴 選挙ゆがめた責任重い

 もらった側も刑事責任を問われるのは当然である。2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、検察当局は河井克行元法相夫妻から現金を受け取った広島県議ら34人を公職選挙法違反(被買収)で起訴した。 当初の不起訴処分から一転した対応だが、遅きに失した感がある。起訴された議員らは、金権政治によって民主主義の根幹である選挙の公正さを揺るがした。有権者の政治不信を招いた責任は重い。

 19年の参院選広島選挙区で、河井元法相が地元議員らに現金を渡し、妻案里氏の集票を依頼したとして、東京地検特捜部は公選法違反容疑で河井夫妻を逮捕した。

 ところが、東京地検は議員ら100人に計約2870万円を配ったと認定しながら、もらった側の100人のうち、死亡した1人を除き、一律不起訴(起訴猶予)とした。

 東京地検側は「一定の者を選別して起訴することは困難で適切でない」と説明した。しかし、100万円単位に及ぶ高額な現金を受領した違反者を不問にするなら、法律は無用だと認めたことに等しい。民主主義は土台から揺らぐ。過去に20万円の受領で起訴され、刑事処分を受けた事件もあり、整合性がとれない。閣僚経験者である政治家の立件がかなえば、残りを不問にするやり方に「裏取引」ではとの国民の批判が集まった。

 市民らの告発を受けて、検察審査会が検察の不起訴処分が妥当かどうかを審査。(1)金額の多寡(2)受領時に公職に就いていたか(3)返金や寄付をしているか―という基準を決めて検討した結果、10万~300万円を受け取った35人は「起訴すべきだ」と議決した。理にかなう審査方法だった。

 議決の理由として、受領者を全く処罰しないことは「重大な違法行為であることを見失わせる恐れがある」と指摘した。検察当局は14日、公選法違反で県議ら9人を在宅起訴、25人を略式起訴した。また検審が「不起訴不当」とした46人はいずれも不起訴となった。

 政治への信頼回復と再発防止のためにまず、議員らに巣くう金権体質を一掃しなければならない。

 だが、検審に「起訴相当」と議決された広島市議らは2日、記者会見を開き「現金を受け取ったのは普通のこと」「違法性の認識はない」と潔白を主張した。有権者を裏切っている自覚すらないのであれば、議員としての資格はないだろう。

 議会の自浄能力も問われる。広島県議会は21年9月、現金を受け取った県議13人に、厳重注意を求める県議会政治倫理審査会の報告書を公表した。「公正を疑われるような金品の授受を行わないよう定めた条例に反する」としながら、辞職勧告をしなかったのは身内に甘いと言われても仕方ない。議会制民主主義の土台である公正な選挙をゆがめることは許されない。

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