「理不尽、声上げなければ」 教員の指導で子が自殺 母親が手記の出版目指す 長崎

執筆中の原稿を手に「理不尽だと思いつつ受け入れてきたことに、声を上げなければ」と語る和美さん=長崎市内

 2004年、長崎市立中2年だった安達雄大さん=当時(14)=が教師の指導直後に校舎から飛び降り自殺した事件から10日で18年を迎えた。雄大さんの母、和美さん(60)は事件からの日々をつづった本の出版を目指し、執筆を進める。教員の行き過ぎた指導を機に子どもが自殺する「指導死」について「考えるきっかけに」と願う。
 「オレにかかわるいろんな人 いままでありがとう ほんとにありがとう ○○(友人)とりょうしん、他のともだちもゴメン」
 雄大さんのノートに最後の言葉が残されていた。
 その日、雄大さんは担任に喫煙を知られ指導を受けた。その後「トイレに行く」と告げ、校舎4階から飛び降りた。学校から連絡を受けた和美さんは訳が分からないまま病院へ。治療室に入るなり死亡確認を求められた。「朝、あんなに元気だったのに」。現実を受け入れられなかった。
 喫煙したならば指導すべきだとは分かっている。ただ、どんな指導をしたのか知りたかった。だが、学校から納得のいく説明はなかった。情報開示請求で得た事故報告書にも詳細な情報はなく、市が県に自殺ではなく事故として報告したことも判明した。
 「二度とこんなことが起きてほしくないのに、なかったことにされてしまう」。遺族は06年、原因究明と損害賠償を求め長崎地裁に提訴した。地裁は08年、訴えを棄却しつつ「指導がなければ自殺することはなかった」と認定した。
 判決によると、担任は雄大さんと90センチ四方の掃除道具入れに入り扉を閉めた。雄大さんはそこで説教され、放課後も別の教室で指導を受けた。その際、喫煙について知る友人の名を挙げるよう迫られ回答した。級友らが指導を受け部活動が停止になることなどを苦慮し、その原因が自分にあると思い詰めて自殺に至った可能性が高いと認められた。和美さんは「居場所だった友だちを裏切ってしまったという思いだったのでは」と考える。
 和美さんは同じような境遇の親が集まる「語る会」に参加。交流を重ねる中で指導死は個人の問題ではなく社会の問題だという思いを深めた。「教員がよかれと思ってやることが子どもを追い詰める。(指導や校則など)理不尽だと思いつつ受け入れてきたことに、声を上げなければ」
 九州でも「語る会」をつくり、日体大などで教員や指導者を目指す学生たちを前に講演した。社会福祉士の資格も取得。NPO法人「子どもの権利オンブズパーソンながさき」の理事も務める。そして、指導死について関心がある人が資料を探した時に手に取れるよう、体験を記録した本の制作に取り掛かった。
 執筆中の本には自身の経験とともに保護者へのアドバイスをつづる。学校との向き合い方、相談機関の存在、「ブラック校則」への意見…。「子どもが意見を伝えた時に大人が聞く耳を持つ環境と、一緒に考え納得することが大切」と語る。「当たり前」が変わることを願い、文章はこう締めくくる予定だ。
 「事件が起きるとすぐに調査が行われ、遺族、関係者に、事実がきちんと報告される。学校は事実に真摯(しんし)に向き合い、謝罪する。そして再発防止を共に講じる。そんな当たり前のことができる日が、必ず来ることを願いながら、諦めず、出会った遺族らと共に声を上げ続けて行きたい」

雄大さんの遺族がクラウドファンディングを呼び掛ける画面

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 和美さんら遺族は出版資金をクラウドファンディングで4月27日まで募っている。


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