避難所も『誰ひとり取り残さない』 発達障害児らとその家族 対応機運高まりに期待

土田さんらが東日本大震災被災地の子どもたちのために作った段ボールのトンネル=2013年、福島県伊達市(土田さん提供)

 異常気象を背景とした風水害などが全国各地で相次ぐ中、発達障害がある子どもたちとその家族らの避難先の確保が大きな課題となっている。さまざまな理由から集団生活が困難な人たちの命と健康をいかに守るのか。長崎県内でも今後、風水害などさまざまな災害の発生が予想され、早急な対応が求められそうだ。
 2年前の夏、大雨による避難勧告が長崎市に発令された。コミュニケーションなどが苦手な自閉症スペクトラム障害(ASD)の幼い子どもを持つ20代の母親は避難するかどうか迷った。
 コロナ禍での避難で住民も神経質になっているはずだった。「うちの子は感覚過敏でマスクを付けることができない。大声を出したり、走り回ったりするだろう。避難所での周囲の冷たい視線に私自身、耐えられるだろうか…」。親子は結局、自宅近くの避難所に行くのをあきらめ、ホテルに連泊した。そこでも狭い空間で体を思うように動かせず、大きなストレスを感じていたという。
 県自閉症協会によると、災害時の避難は共通の悩みや心配事であり、「避難所で(周囲に)迷惑を掛けたくない」と考える会員も少なくない。2016年の熊本地震では、体育館など公共施設への避難を諦め、車中泊や軒先避難を選んだ発達障害者やその家族が数多くいたという。
 同協会が加盟する長崎市心身障害者団体連合会は20年11月、会員が通い慣れた「もりまちハートセンター」を避難所にするよう要望。市は対応が可能か検討しつつ、災害時にすべての人を支援するのは難しいとして、親類宅など避難場所をあらかじめ決めておく「マイ避難所運動」を広く推進している。県は「福祉避難所」を増やすのが課題として、市町から要請があれば、特別支援学校で配慮が必要な人たちを受け入れる態勢を整えたところだ。
 生きづらさを感じている子どもや保護者ら約100人を支援している長崎市のNPO法人「なごみの杜」代表で日本感覚統合学会長の土田玲子さん(70)=福島県伊達市出身=は11年の東日本大震災発生後、被災地でボランティア活動を続けてきた。「子どもたちは避難所などで厄介者扱いされがち。段ボールでトンネルなどの遊び場を作ってあげるとストレスを発散し、親の負担も軽くなった」と指摘。「発達障害をもつ方々だけの避難所ができれば、行き場がないという不安から親が救われる。行政や企業による設置機運の高まりに期待したい」と話す。
 長崎発達支援親の会「のこのこ」の女性会員(52)は「避難所では発達障害に限らず、一人一人に異なる配慮をしてほしいことがあるはず。それを気兼ねなく話せる環境があったらいい。できないことをフォローし、できる力を出し合うことが『誰ひとり取り残さない』というSDGsの理念に通じると思う」と語った。


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