<書評>『探訪 ローカル番組の作り手たち』 現場発の「金言」めじろ押し

 日本には、いったいどれだけ「放送局」があるだろうか。各地のローカル局やコミュニティーFMに至るまで、簡単には数えきれない。そして、そこには必ず、番組作りに没頭している多数の制作者がいる。そんな各地の放送局を一つ一つ訪ね歩き、制作者たちの話を聞いて回った記録が本書だ。
 どのページからでもいい、開いてみると、例えばこんな言葉が目に飛び込んでくる。「ニュースを通して課題が見えてくる。市民が行動できる仕組みが大事だ」「身近にいる普通の人を同じ目線で見れば、それぞれドラマがあるし、学ぶものがある」「私たちの仕事はね、小さな声にスピーカーを当てることよ」…。本書の至るところ「至言」「名言」「金言」がめじろ押しだ。紹介した最後は、沖縄テレビの平良いずみさんが先輩アナウンサーから聞いた言葉だそうだ。他にも、元気な沖縄のラジオを象徴する若手の制作者たちの言葉も、ふんだんに紹介されている。
 地域の人々や過去の歴史に正面から向き合って誠実に番組作りを続けてきたからこそ、到達しえたクリエイターの境地なのではないだろうか。そうした珠玉の言葉たちを、簡潔な文章で歯切れよく伝えることができているのは、元新聞記者の面目躍如といったところか。雑誌連載を地域別に整理し直したていねいな編集も好感が持てた。
 いま放送業界では、インターネットの急激な発展で広告収入を奪われ、「斜陽産業」との声も聞かれる。経営効率化のためにローカル局の再編や地域番組の同一化も取りざたされるようになっている。しかし、もし放送局の整理統合で、これだけ各地でがんばっている番組制作者たちの発表の場が狭められることになったら、文化的・社会的損失は計り知れないだろう。
 タイトルになっている「探訪」の語義については本書の「まえがき」を参照してほしいが、もし若い学生が本書を手にすることがあれば、評者からはこのように伝えたい。「探訪の仕事はこんなに楽しいですよ。皆さんもいかがですか?」
 (岩崎貞明・放送レポート編集長)
 くまもと・しんいち 1953年鹿児島県生まれ、ジャーナリスト。日本を含むアジア文化・メディアを主なテーマとする。著書に「永六輔 時代を旅した言葉の職人」、共著に「原発とメディア2―3.11責任のありか」など。

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