「プーチンの戦争」を止められるのは誰か|和田政宗 核の恫喝、極超音速ミサイルの使用。ロシアは市民に対する無差別爆撃を繰り返しており、多くの子供が亡くなっている。プーチン大統領の狙いはどこにあるのか。誰がプーチン大統領の暴走を止めることができるのか。日本外交の真価がいま問われている――。

極超音速ミサイル「キンジャル」を使用

ロシア軍がウクライナの首都キーウに迫るなか、ウクライナの人々は軍をはじめ頑強に抵抗し戦っている。こうしたなか、ロシア軍が直面しているのは食料、水、燃料などの不足だ。

ウクライナが傍受して公開したロシア兵とロシア国内にいる家族との通話では、「食料が無い。昨日から武器も無い。軍用車を動かす燃料も無い」とロシア兵が家族に訴えている。ロシア軍は、首都キーウを攻撃するには補給路が長くなることが明らかであったのに、そのための対策が薄かったとみられる。

なお、首都キーウが陥落したとしても、ウクライナ軍や国民は徹底的に抗戦するとみられるため、キーウに入ったロシア軍は逆に四方八方から攻撃を受けることになり、補給に苦しむことは明らかだ。

戦争が長期化すればこのような状況になることがロシアは分かっていたはずで、首都キーウに対する攻撃は手詰まりになってきている。であるから、私が先週述べたようにロシアによる核兵器の使用が危惧されるわけだが、ロシア国防省は19日、極超音速ミサイル「キンジャル」を使用し、ウクライナ西部イワノフランコフスク州の軍事施設を破壊したと発表した。

極超音速ミサイル「キンジャル」は、最大速度マッハ10とされ、探知や迎撃は困難だ。最新鋭のミサイルを使用することによって、ウクライナに脅しをかけるとともに、米国やNATO諸国を威嚇することが狙いである。

また、ロシアは市民に対する無差別爆撃を繰り返しており、多くの子供が亡くなっている。ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリでは1000人が避難していたとみられる劇場がロシア軍の攻撃で破壊され、ゼレンスキー大統領は「救助の一方で、いまだ数百人が瓦礫の下にいる」と述べている。

このようにロシアは、何の罪のないウクライナ市民を何人殺してでも、ウクライナを侵略しようとしているのである。

ウクライナ徹底抗戦とロシアの狙い

一方、こうした戦況から冷静に分析しなくてはならないのは、ロシア軍の作戦の優先度だ。南東部のマリウポリは、市の中心部にロシア軍が入り激しい市街戦となっている。マリウポリが制圧されれば、ロシアが違法に併合したクリミア半島とウクライナ東部のロシア軍支配下地域がつながることになる。

さらに、南西部の黒海に面する要衝オデッサにもロシア軍の攻撃が迫ろうとしている。ロシアはまずウクライナ南部の各都市を制圧し、その後、首都キーウなどへの本格的攻撃に入るとする作戦に転換したか、初めからそうであった可能性もある。南部を全て制圧されれば、ウクライナは海を失う。また、南部地域は鉄鋼石の産出地であり、ロシアはそれらの資源を押さえることになる。

しかし、いずれにせよ停戦が成り立たなければ、この侵略戦争は長期化する可能性が強く、ウクライナ軍に米国やNATOから兵器が供給され続けている限りは、ロシア軍の進軍には多大な犠牲が伴う。対戦車ミサイル「ジャベリン」は、侵入するロシアの戦車や装甲車を破壊し続けているし、地対空ミサイルや航空戦力によってウクライナは今も制空権を保っている。

これに対し、ロシアは長射程のミサイルによって首都キーウへの攻撃を強めようという動きがみられる。キーウを包囲する部隊に砲兵部隊が加わっており、キーウを破壊し尽くしてでも制圧する構えだ。極超音速ミサイルを使用し、核兵器の使用をちらつかせ、首都への総攻撃でウクライナを屈服させようというのがロシアの狙いだ。

ウクライナはゼレンスキー大統領が国を守るために徹底的に抗戦することを表明しており、各国議会でのリモート演説を始めた。各国にウクライナ支援を直接呼びかけるなか、ポーランド、スロべニア、チェコ3カ国の首相が危険を冒してまでもウクライナ入りし、ゼレンスキー大統領と会談した。

また、スロバキアは、ウクライナが求める高性能地対空ミサイル「S300」を提供する意思を表明するなど支援の輪はさらに広がってきている。

日本に求められる強力なリーダーシップ

こうしたなか、日本はウクライナをめぐりキーとなる各国との外交を19日からの3連休で展開した。岸田首相はインドを訪問しモディ首相と会談した。インドは、2月の国連安全保障理事会で対露非難決議に中国、UAEとともに棄権している。

ロシアからの兵器輸入などの関係から棄権したとみられるが、日印首脳会談では「力による一方的な現状変更はいかなる地域でも許してはならない」ことが確認された。

また、林外相はトルコを訪問し、チャウシュオール外相と会談。トルコは10日、ロシアのウクライナ侵略後初めて、ロシア外相とウクライナ外相、トルコ外相による3か国外相会談を実現している。日トルコ外相会談では、ロシアの軍事侵攻は国際法の重大な違反だという認識で一致し、国際秩序の根幹を守り抜くため協調して対応していくことを確認した。

このような外交を展開することについては重要なことであり評価したいが、安倍元総理、菅前総理の時のように、G7やクアッドの枠組みを活かした強力なリーダーシップが日本には今こそ求められる。安倍政権以後、日本は世界各国から、米国、ロシアに並ぶ世界の外交的リーダーとの評価を受けている。停戦、そしてロシア軍の全面撤退に向け日本が中心となって外交を展開すべきだ。

現政権のメンバーのみならず、安倍元総理、菅前総理の力も借りてフルで外交を展開しなければ、日本が築き上げた、世界のトップリーダーであるという外交的信頼を失うだろう。世界の平和を守るためにも、ロシアや中国の東アジアにおける侵略を防ぐためにも今こそ行動すべきである。私は自民党内で強く提起し政府に働きかけ、実現していきたい。

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和田政宗

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