見世物小屋の愛と野心、そして悲劇! ギレルモ・デル・トロ『ナイトメア・アリー』アカデミー賞4部門ノミネート

『ナイトメア・アリー』©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

暗い。暗いからこそ目が離せない。これはいったいどこまで暗いのか、と。

『シェイプ・オブ・ウォーター』(2016年)でアカデミー賞作品賞、監督賞を受賞したギレルモ・デル・トロの新作『ナイトメア・アリー』。原作小説には「悪夢小路」の邦題がついている。

『ナイトメア・アリー』©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

史上初の快挙が連発!! 【第94回アカデミー賞】 話題まとめ!濱口竜介監督作『ドライブ・マイ・カー』邦画初の作品賞ノミネートなど、オスカー候補作を一挙ご紹介!

鉄壁のチームでアカデミー賞4部門ノミネート

物語が始まるのは1930年代の終わり。誰にも言えない過去を持つ流れ者のスタンは、カーニバルのサイドショー(見世物小屋)に潜り込み、仕事を得る。“獣人(ギーク)”が檻に閉じ込められ、怪力男や読心術が観客の目を奪う。一座を率いるクレムが語る“獣人の作り方”は、想像を絶する残酷さだ。

『ナイトメア・アリー』©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

米アカデミー映画博物館で「映画の物語」を体験したい!! ギレルモ・デル・トロ、スパイク・リーが博物館の魅力を語る

読心術(のトリック)を身につけたスタンは、恋仲になったモリーとともに一座を抜け出し、都会に出て上流階級の人々を相手に成功を収める。サイドショーは怪しげだが、はぐれものたちが一種の家族を形成していた。しかし、都会にあるのは食うか食われるかの関係だけだ。リッター博士はカウンセリングを通してスタンと共犯関係となり、同時にお互いを操ろうとする。世渡りのうまさとカリスマ性でのし上がったスタンだが、最大の敵は自分の野心そのものだった。

『ナイトメア・アリー』©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

これまでSF、ファンタジーを得意としてきたデル・トロ。今回はリアルな30~40年代を舞台にしており、その点で新境地と言える。ただ、冒頭から一気に作品の世界観に引き込む力量は変わらず。それを支えるのは『シェイプ・オブ・ウォーター』から続投となるダン・ローストセンの撮影、タマラ・デヴェレルの美術だ。2人は衣装のルイス・セケイラとともに第94回アカデミー賞にノミネート。本作は作品賞のほか計4部門ノミネートとなった(撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞)。

『ナイトメア・アリー』メイキング©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

アカデミー賞ノミネート『マクベス』 まるでSF? ジョエル・コーエン初単独監督&デンゼル・ワシントン主演

ブラッドリー・クーパーやケイト・ブランシェットら豪華共演

妖しく、しかし艶のある世界で蠢く登場人物たち。俳優陣の演技も素晴らしい。スタン役のブラッドリー・クーパーとリッター博士に扮したケイト・ブランシェットの“対決”を、デル・トロは「本作の最大の見もの」だと言う。

『ナイトメア・アリー』©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

ルーニー・マーラ演じるモリーの悲劇性、デル・トロ作品には欠かせないロン・パールマン。出てくるだけで画面をかっさらうウィレム・デフォー。スタッフ、キャストそれぞれがハイレベルで、そのマリアージュとして仕上がった『ナイトメア・アリー』は“映画を見る愉しみ”に満ちている。その意味では、方向性は違うけれどもスティーヴン・スピルバーグの『ウエスト・サイド・ストーリー』(2022年2月11日より公開中)と双璧ではないか。

『ナイトメア・アリー』©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

61年版との違いは? スピルバーグ念願の『ウエスト・サイド・ストーリー』愛とキャリアを注ぎ込んだ初ミュージカル!

暴走のようにも見える地獄めぐりの果て、スタンはそうなるしかない結末を迎える。あまりにも皮肉で、しかしそれは闇の中の救いのようにも思える。

『ナイトメア・アリー』©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

本作の撮影、画面作りに関して、デル・トロは「もっと暗く!」と言い続けたそうだ。納得、としか言いようがない。そして見終わった後、あらためて予告編も確認してほしい。

『ナイトメア・アリー』©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

文:橋本宗洋

『ナイトメア・アリー』は2022年3月25日より全国公開

デル・トロ監督絶賛! 日本発コマ撮りアニメ『JUNK HEAD』を7年かけて作り上げた堀貴秀が目指した“80年代の肌ざわり”

【アカデミー賞2022】ノミネート作を徹底解説!!

© ディスカバリー・ジャパン株式会社