【最高で変な “闇の騎士” の映画】バットマン映画ランキング BEST3 【映画レビュアー・茶一郎】

はじめに

お疲れ様です。茶一郎でございます。『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(以下『THE BATMAN』)、いかがでしたでしょうか。かれこれ『THE BATMAN』に関しては、予習動画、本編のレビューと、2本上げております。締めの3本目のこの動画は、以前私がTwitterで上げました、超個人的な「バットマン」映画お気に入りランキング。これが思いのほかご反響いただきましたので、このランキングについて、私の大好きな「バットマン」映画をまとめていくというゆるめの動画でございます。ぜひ『THE BATMAN』をご鑑賞いただいたあと、「追いゴッサム・シティ用」にご活用下さい。お願いいたします。

↓↓予習動画、本編のレビュー動画↓↓

バットマン(1989) - バットマンの黒を決定的にした金字塔

第4位は、1989年の『バットマン』でございます。説明不要な、「バットマン映画化」を超えてアメコミ映画の文脈で金字塔的作品。60年代の明るくドタバタな「バットマン」のTVシリーズとはまったく違う、ダークで陰鬱な世界を映した「バットマン」作品として、最新作『THE BATMAN』につながる、バットマンの「黒」を確立しました。

舞台のゴッサム・シティでは、夜な夜な「コウモリ」が現れ、犯罪者を撃退しているという都市伝説が流れております。この伝説を調査する記者の女性。その一方、ゴッサム・シティのマフィアのボスとボスの右腕ジャックとの静かな対立が、抗争に広がる。このジャックは、「コウモリ」バットマンと対決して化学薬品のタンクに落ち、ジョーカーと名乗る男としてよみがえります。ジョーカーはゴッサムの裏社会も表社会も狂気で支配しようとする。バットマンそれを阻止できるか。『バットマン』のあらすじでございました。

作品はとてもその年の家族全員で楽しめる全米興行収入1位の映画とは思えないほど、とっても変な映画なんですよね、その歪(いびつ)さが魅力的です。監督を務めたティム・バートンは、コミックに魅了されたというよりも、バットマン=ブルース・ウェインの分裂した人格、二重人格的なキャラクターに惹かれたそうです。人間誰しもがいろいろな面を持っている、そのメタファーが「バットマン」だというバットマン観、それを娯楽作として描こうというのが、このティム・バートン版『バットマン』です。

ブルース・ウェイン以上に、ヒロインとも言える新聞記者の女性の視点で、物語が進んでいきます。これが少し奇妙なあたりです。ヒーロー映画ではありますが、ヒーローではない人物の視点で進む。その記者の女性が主人公ブルース・ウェインに近づいて、ブルースを調査/取材していると、だんだんとブルースの過去、心の闇、隠れた2つ目の人格=バットマンが明らかになるという。そういう主人公ブルースの心のミステリーと、そんな心に闇を抱えた男バットマンVSやはり同じく事故で心をおかしくしたジョーカーの対決を並行して描いていきます。この観客が代入しやすい普通の人の視点が、映画の中にあるというのが肝ですね。

『THE BATMAN』では、もう冒頭からブルースの心の声/モノローグから始まる。ブルース=病んだ男の主観で始まって、観客はブルースの主観に近い視点で、二重人格どころか、バットマンという自我に浸食されて心を蝕まれているブルース=バットマンを体験させられました。本作では普通の人の視点から、ブルースの心を読み解いていくと。

名シーンは、その記者の女性とブルースがディナーをするシーン。ここ良いですね。2人っきりのディナーなのに、テーブルが大きくて2人がめっちゃ離れているという。おそらくこれ、『市民ケーン』の有名な食卓シーンからの引用じゃないかなと思いますが、ブルースの他者との距離感、少なくとも変な人であるという事を分かりやすく可視化する食事シーンです。

加えて、ブルースを演じているのがマイケル・キートンという。役者が決まった段階でコミックファンから批判が殺到したのも頷ける、ヒーロー映画の主役とは思えない、不気味で、何を考えているか分からないマイケル・キートンのたたずまい。公開されてみると、ブルース・ウェインのハマり役ということで、今回の『THE BATMAN』のロバート・パティンソン、『アメリカン・サイコ』からの『バットマン ビギンズ』のクリスチャン・ベイルとか、少し心の奥底に闇を感じさせる俳優こそバットマン役にふさわしいという、この病み役者起用の流れの元祖が、マイケル・キートンと言えるんじゃないでしょうか。ティム・バートン監督のアバターともいうべき、孤独な心に闇を抱えた、他人との心の壁が分厚い、人付き合いの苦手なブルースを見事に演じました。

何よりティム・バートン版は、裏の主役「ゴッサム・シティ」ですね。最も触れるべきジャック・ニコルソンが演じた最高のジョーカーに触れずに、「ゴッサム・シティ」です。前々回の動画でも「バットマン」映画の第二の主役は、ゴッサム・シティだと申し上げました。今回の『THE BATMAN』でも、ブルースの「この街から犯罪を、悪を洗い流したい」という『タクシードライバー』(1976)のトラヴィスのような思いが街に現れたような、心象風景として機能していた雨のやまないゴッサムでした。

作品ごとに主人公の心情、作品のテーマを分かりやすく反映して可視化するゴッサム・シティ。バットマンとジョーカー、2人の二面性を表しているかのように、腐敗した工業都市とティム・バートンお得意な表現主義/ゴシック調、その2つが混ざり合っている。現実とフィクション、現実とファンタジー、現実とSF、ブルースとバットマン、その分裂した人格をゴッサム・シティとしても表現しているように見えます。脚本には「歩道から地獄が涌き続けているような街」と書かれていたと。ティム・バートンと美術のアントン・ファースト、見事に映像にしております。「地獄が涌き続けている」、すごい表現ですね。

ダークナイト三部作みたいに、現実のシカゴそのままをゴッサム・シティとしたり、『ジョーカー』みたいに70年代ニューヨークをそのままをゴッサムとしたりと、バットマンのフィクションの世界を現実に持ってくるんだというその意図も全然アリだと思いますが、やっぱりティム・バートン版ゴッサムの造形は、原点にして頂点だと思います。

このティム・バートン版『バットマン』のマイケル・キートン演じるブルースは、何と約30年ぶりに、新作『ザ・フラッシュ』と『バットガール』、それぞれのヒーローをつなげるキャラとして映画に帰ってきますので、ぜひ新作の予習も兼ねて、今こそティム・バートン版『バットマン』ご覧下さい。個人的お気に入り4位『バットマン』でした。3位は『THE BATMAN』ですので、続いて2位に参ります。

レゴバットマン ザ・ムービー - バットマンのキャラクター分析的映画の傑作

第2位は、『レゴバットマン ザ・ムービー』(2017)でございます。これを他の実写作品と比較するのは少しためらわれますが、「バットマン」というキャラクターを一歩踏み込んで描いた傑作ですから、挙げないのは無理でしょう。

本作『レゴバットマン ザ・ムービー』は、スモークと光以外は全部レゴブロック、雲とか炎とかビーム光線とか、全部レゴで描くという狂った最高のアニメ。2013年の『LEGO(R) ムービー』に登場したバットマンを主役にした、スピンオフ単独作です。したがってバットマン、ゴッサム・シティも、すべてオモチャのLEGOブロックで表現されます。

この段階で、だいぶ視覚的な情報が多いんですが。製作のフィル・ロード&クリス・ミラーコンビの作品、今年のアカデミー大本命の『ミッチェル家とマシンの反乱』、『スパイダーバース』同様、視覚的情報過多に加えて、異常な数のギャグ、展開のスピード、すべてが重なって本作も情報が多い「観るドラッグ」としてお楽しみいただける。「バットマン」抜きにして映画のベースのクオリティが高いです。

本作『レゴバットマン ザ・ムービー』において、その異常な数のギャグには、「バットマン」のメタギャグ、イースターエッグが追加されています。まず映画始まると、真っ暗な画面をバックに主人公バットマンが「黒。すごい映画は必ず黒い画面から始まる。音楽が不気味でオドオドしい。保護者や配給会社を不安にさせる」と、バットマンの「黒」を自らイジる開幕0秒メタギャグから始まります。その後も原作コミックの悪役をたくさん登場させ、マイナーな悪役もイジる。TVシリーズ含めた過去の映画もすべて映画の中でイジる。おまけに「バットマン」ネタだけではありません。『グレムリン』『ハリー・ポッター』『ジュラシックパーク』『ロード・オブ・ザ・リング』『マトリックス』その他諸々、ポップカルチャーネタも満載。「バットマン」映画を高次元からメタ的に見下ろした挙げ句、他の映画ネタも出す。ちょっと反則的な作りの映画ではあります。

そんな「観るドラッグ」的メタ「バットマン」コメディ映画ではある『レゴバットマン ザ・ムービー』なんですが、これがこれが実直に「バットマン」というキャラクターを分析した、とても誠実な「バットマン」映画として仕上げました。ただふざけて茶化すのではなく「バットマン」という題材へのアツい愛が込められています。

本作『レゴバットマン ザ・ムービー』で、バットマンが対峙する最大の敵。「よりよい世界を望むなら 自分を見つめて変えてごらん」と、「自分」ですね。『THE BATMAN』と同じく、自分が内に、心の奥底に込めている「恐怖」。幼くして両親を、家族を亡くしたバットマン=ブルース・ウェインが、「家族を作ること」と戦う映画が、この『レゴバットマン ザ・ムービー』でした。

『アバウト・ア・ボーイ』(2002)という、印税で暮らす孤独な中年男性がある少年と出会ったことで他者の尊さに気づく映画がありました。この『アバウト・ア・ボーイ』もしくは『クレイマー、クレイマー』(1979)のような家族ドラマのフォーマットを利用して、ブルースが養子になったロビンと向き合うドラマを通じて、ブルースの心の闇、その成長を描くという。確かに原作にもバットマン=ブルースを精神分析的に描いて癒す作品はありますが、それを誰もが観て分かりやすい楽しいコメディでやってしまったという驚くべき作品が『レゴバットマン ザ・ムービー』です。「バットマン」を上から見下ろして、ふざけて茶化しながら、最終的に癒してみせます。

まだまだ、それだけではない『レゴバットマン ザ・ムービー』。何とブルース=バットマンだけではなく、悪役ジョーカーも精神分析して物語に組み込んでいます。バットマンとジョーカーの切っても切れない関係性を、まるでラブストーリーとして、鋭くもコメディとしても描きました。

毎秒ギャグ、毎秒イースターエッグの「観るドラッグ」コメディとしても上質ですが、それ以上にバットマンの精神分析とセラピー、成長物語、おまけにジョーカーとの関係性の高度な分析。ダメ押しは本作がLEGOブロックのアニメである事を120%活かした他人との“つながり”の描写、あの大仕掛け。すべてが完璧に噛み合っている「バットマン」映画だと思います。個人的お気に入り第2位は『レゴバットマン ザ・ムービー』です。最後1位。

バットマン リターンズ-題材を飛び越えた作り手の偏愛。怪獣映画としての「バットマン」

大好きです。『バットマン リターンズ』(1992)。これはバットマンを主役とするヒーロー、アメコミ映画というより、怪獣映画、モンスター映画に近いと思います。『バットマン リターンズ』は先ほどの1989年の『バットマン』の続編です。

マイケル・キートンが続投して演じたブルース=バットマンが今回戦うのは、その醜さから両親に捨てられたサーカスギャングのボス・ペンギン。そして秘書として働く会社の陰謀に気づいて殺されてしまって、猫の神秘的な力でよみがえったキャットウーマン。バットマンが2人の悪役と戦う映画なんですが、これがまたまた変な映画なんですね。

前作では普通の人=新聞記者の視点がありましたが、本作はそれすらなくなりまして、メインの登場人物全員が表の姿と、コウモリ、ペンギン、猫、動物を纏った裏の姿。全員の人格が分裂しているという、人格の二重性/心の闇を抱えた孤独な者たちが時に戦って、時にその心の傷を癒やしあってと。その二重人格者たちのお祭りのような映画が『バットマン リターンズ』です。

監督は前作から引き続きティム・バートンですが、やはり前作から一貫して、監督が魅了された「二重人格のメタファーのバットマン」を加速させています。語り草な名シーンは、ゴッサム・シティの名士、お金持ちたちが集まる仮面仮装パーティのシーンで皆が仮面をつけて参加している中、バットマン=ブルースとキャットウーマン=セリーナだけが素顔で参加している。まさしく彼らにとっては表の顔の方が仮面であると。監督ティム・バートンはこう言っています。「自分にとってマスクをかぶることは自己表現へと通じる、自分が自由を感じられる入り口だ」と。

『THE BATMAN』同様、本作でもバットマンとキャットウーマンは惹かれあっていきますが、二人が表の顔でブルースとセリーナとしてのやり取りはどこかぎこちない。一方、二人が仮面をかぶると、バットマンとキャットウーマンとしてのやりとりは、自由に感情を表に出すことができると。ティム・バートンは、この仮面をかぶらないと自分を出せない、仮面こそが表の顔というブルースにご自身を投影したことで、より繊細なバットマン描写を『バットマン リターンズ』に刻み込みことを達成しています。

何より怪獣映画としての『バットマン リターンズ』。ティム・バートン監督の映画制作時を振り返る言葉をそのまま引用するのが早いと思います。「我を忘れていたんだと思う。キャラクターたち全員に興味を持ってしまったと気づいたんだ」と。『バットマン リターンズ』が異常なのは、監督が映画を作っていて、本来悪役であるべきペンギンにどんどんと感情移入しているのが伝わってくるところですね。タイトルは「バットマン」ではなく「ペンギンマン」の方が良いんじゃないかと思うほどに、どんどんとペンギンの物語の比重が大きくなっていくところが歪(いびつ)で魅力的ですね。

醜いというだけで幼少期に捨てられて、ゴッサム・シティの下水道、言葉通り光が当たらない地下、闇で育ったペンギンが世界に復讐する物語としての『バットマン リターンズ』。舞台はクリスマスですから、一番、家族が、恋人たちが幸せを噛み締める時期に、ペンギンがクリスマスツリーを破壊する。クリスマスを破壊する。「リア充爆発しろ」の世界ですね。

ティム・バートンのインタビュー集の「バートン・オン・バートン」という書籍がございます。ティム・バートンご自身が幼少期を振り返っているインタビューが掲載されていまして、そこでティム・バートンこう言っています。「子供の頃、僕はゴジラの役者になりたいと思っていた。ゴジラのように怒りを発散させる趣向を楽しんでいた。(中略)社会を破壊したいという衝動は子供の頃に形成されていたと思う」。

前々回の動画で挙げた『タクシードライバー』の「クズどもを洗い流す雨が降るだろう」でもそうですが、思春期特有、多くの方が持っていたと思います、この世界をぶっ壊したくなる衝動、ゴジラの中に入って世界をぶっ壊すんだというこの衝動が『バットマン リターンズ』のペンギンに出てしまった。ティム・バートンはこのペンギンに、ゴジラを、キングコングを、小さい頃ご覧になっていた数多くの怪獣・モンスターを投影していると思いました。

僕はこの『バットマン リターンズ』は、ほぼゴジラの映画だと思っています。そしてそのティム・バートンの幼少期の衝動を止められるのは、やはりティム・バートン自身を反映したような監督のアバターである人格分裂的な病んだヒーロー=バットマンだと。まるでティム・バートンの心の中をそのまま映画にしたような、心の闇を抱えた孤独な者たちの狂騒。怪獣映画としてバットマンを昇華させた異常なこの「バットマン」映画である『バットマン リターンズ』。飛び抜けて好きな一本です。弟1位『バットマン リターンズ』でした。

さいごに

ということで今回は緩めの「追いゴッサム・シティ用」動画でした。皆様のお気に入り「バットマン」映画ランキングも楽しみにしております。最後までご視聴誠にありがとうございました。さようなら。

本記事は、圧倒的な情報量と豊富な知識に裏打ちされた考察、流麗な語り口で人気のYouTube映画レビュアーの茶一郎さんによる動画の、公式書き起こしです。読みやすさなどを考慮し、編集部で一部変更・加筆しています。


茶一郎
最新映画を中心に映画の感想・解説動画をYouTubeに投稿している映画レビュアー

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