夢は整形外科医とプロ野球選手の“二刀流” 強烈スイング&強肩の小6女子に密着

草加ボーイズで捕手を務める北村絵菜さん【写真:編集部】

草加ボーイズの北村絵菜さん、打球の飛距離は男子よりも上

シャープなスイングから打球がネットに突き刺さる。打球の飛距離はチーム屈指だ。捕手の練習では無駄のない動作から二塁へ強いボールを投げられる。埼玉・草加市にある小学生の軟式チーム、草加ボーイズで捕手を務める副主将の北村絵菜(きたむら・えな)さんは今年4月から小学6年生。少年野球のチームメートも指導者も一目置く彼女の将来の夢は「整形外科をしながら、女子プロ野球選手になりたい」と、異色の“二刀流”を目指し、学業、練習に精を出している。

【実際の動画】防球ネットまで一直線! チーム屈指の技術を誇る北村さんの打撃シーン

ある平日の夜、室内野球練習場「フィールドフォース」(東京・足立区)内でのこと。そこに併設されるカフェで北村さんは宿題をしていた。土日のチームの練習以外にも、室内練習場や、家の庭を使って毎日練習に取り組む。この夜も2時間半、みっちり練習した後でも当たり前のように机に向き合っていた。「勉強しなければ(整形外科に)なれないので」。練習後の勉強タイムはすでに日課になっている。

野球との出会いは小学1年生の時。2学年下の弟の付き添いで、少年野球チームの見学に行ったことがきっかけだった。付き添いだけのつもりだったが、見学するうちに「『楽しそうだな』って」。すぐに両親に「私もやりたい」と伝え、1年生の10月からユニホームに袖を通した。

それからは打撃で遠くに飛ばせることに楽しさを感じ「野球が遊びです」とのめりこんだ。西武ライオンズ・レディースで活躍するベテラン・志村亜貴子外野手の守備を動画で見て「技術が凄い」と憧れ、将来の夢に女子プロ野球選手を挙げるようになった。YouTubeやSNSに公開されているプロ野球選手の練習を真似し、母とともに目的や意図などを探りながら行う毎日だ。最近では、日本ハム・近藤健介外野手が腰を落とし、体から離れたところに球を出すトスバッティングを「外角の球を打つ練習」と解釈。母に球出しをしてもらい練習に取り入れた。

夢は「プロ野球選手」と「整形外科医」の“二刀流”【写真:編集部】

右ひじをはく離骨折して出会った整形外科医との出会いが、夢を動かす

そんな北村さんが「プロ野球選手」と「整形外科医」の“二刀流”を目指したきっかけになる出来事があった。昨年3月の投球練習中、突然、右ひじに痛みが出てきた。診断は「はく離骨折」で、3か月間、練習ができない日々が続いた。

整形外科の先生に診てもらい、体の使い方から、女子の体の発達に合わせた体のケアの指導を受けた。練習後に疲労を残さないようにと、肘から手首にかけて押していくマッサージを教わり、言われた通りにやるとみるみる痛みが緩和した。治療中も打撃練習など、投げる方法以外を親身になって考えてくれた。投げられるようになってから、喜びと同時に、治療の凄さを感じ、憧れを持つようになった。

夢を持ってからはさらに勉強、野球に精を出すようになった。平日も帰ってきたら母にトスを上げてもらい、その後に自ら勉強机に向かう。母から整形外科医になるには6年制の医学部に合格しなければいけないことを聞き、勉強時間も大幅に増えた。両親も「(整形外科を目指してから)変わりましたね」と驚く。

昨年末の12球団ジュニアトーナメントを神宮球場で観戦し、目標が自分を突き動かす。一緒に練習をしたことがあり、「憧れ」でもあるジャイアンツジュニア初の女子選手・濱嶋葵さんの投球を見た。「自分も葵ちゃんのようになりたい」。そう強く感じた。勉強も欠かさず、今夏のセレクションで、NPBのジュニアチームの合格を目指し、日々努力する北村さんにはその可能性は十分に秘められている。すでにNPBジュニアチームの関係者の目にも留まる逸材が、これからどんな成長を遂げるのか楽しみだ。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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