新興国投資のリスクを考える、高成長を期待された国々の現状

かつて「BRICs」という言葉が投資の世界で話題になりました。Brazil、Russia、India、Chinaという、2000年代に入って著しく経済成長を遂げようとした4カ国の国名の頭文字を取った名称です。しかし、これらの国々の現状はどうでしょうか。


一時流行った新興国投資

BRICsという言葉の生みの親は、ゴールドマンサックスの経済学者で、ゴールドマンサックスアセットマネジメント会長を務めたジム・オニール氏です。この言葉は本当に流行って、BRICsという名称を冠した投資信託も多数設定・運用されました。

また、BRICsと同じように、いくつも新興国のグループが誕生しました。たとえばBRICsの「s」を大文字にして、South Africaを加えたグルーピングもありましたし、「MENA(ミーナ)」というグルーピングもありました。これはMiddle East & North Africaの略称で、サウジアラビアやアラブ首長国連邦、クウェートなどが含まれています。

「Next11(ネクスト・イレブン)」というのもありました。ベトナム、韓国、インドネシア、フィリピン、バングラデシュ、パキスタン、イラン、エジプト、トルコ、ナイジェリア、メキシコがこれに含まれています。

新興国投資の魅力は高成長期待

新興国投資の魅力は、対象国の高い経済成長期待による株価の値上がりにあります。

中国やインドなどはまさにその代表例と言っても良いでしょう。10億人をはるかに超える巨大な人口を抱え、規模の経済から高い経済成長を維持しています。

中国のGDP成長率は2003年から2ケタ成長に入り、2007年には14.23%に達しました。その後、リーマンショックがあり成長率は大幅に鈍化したものの、それでも現状、5%台の成長率を維持しています。

インドも2003年以降、リーマンショックまでは7~9%台のGDP成長率を維持しました。2008年こそ3.89%まで低下していますが、その後は再び力強く回復して、2010年には10.26%まで上昇。それ以降は頭打ち気味ですが、2021年の推計値では9.50%が見込まれています。

経済成長率が高ければ、当然のことですが、株価も堅調に推移します。実際、中国やインドの株式市場に投資する投資信託の運用成績は、過去10年間で年率10%台を維持しているものが少なくありません。過去10年間の年平均リターンが10%だとしたら、その投資信託は10年間で倍になる計算です。

期待の裏側にあるハイリスク

ただ、同じ新興国でも思ったほどに経済が成長せず、投資成果も低迷しているケースがあります。新興国だからといって一様に高成長が期待できるというものではないのです。この点には留意しておく必要があります。

たとえばブラジル。BRICsの一角に含まれ、2003年当時は将来を嘱望された国でしたが、この20年間、経済は低迷続きでした。2010年のGDP成長率は7.53%まで上昇したものの、その後は大幅に成長率が鈍化しています。しかも2015年は▲3.55%、2016年は▲3.28%と2年連続でマイナス成長になったばかりか、2020年は▲4.06%まで落ち込みました。

当然、ブラジル株式市場に投資する投資信託の運用成績も振るっておらず、過去10年のリターンは年率で▲2~4%となっています。仮に▲2%としたら、この10年間で投資元本が20%目減りしたことになります。

もっとも、ブラジル株式市場に投資する投資信託の運用成績が悪いのは、株価の影響よりも、どちらかというと為替レートの影響が大きいと思われます。2012年1月時点のブラジルレアル/円のレートは、1ブラジルレアル=45円前後で推移していましたが、2022年1月時点では1ブラジルレアル=20円程度まで円高が進みました。

ブラジルレアルが対円で下落している理由は、物価の上昇率が高いからです。2010年以降で見ても、年率5~6%の上昇が続き、2015年には9.03%になりました。物価が上昇すれば通貨価値が下がるため、通貨には下落圧力がかかります。

トルコ投資も同様です。かつてトルコの経済成長が期待された時、トルコの株式市場に投資する投資信託の運用成績が急騰しましたが、ここ数年は高インフレの影響でトルコリラが急落しており、それが投資信託の運用成績に悪影響を及ぼしています。

個人が新興国に投資する必要性はないのかも知れない

日々、深刻化しているウクライナ情勢も、新興国投資に大きな影響を及ぼしています。特にロシア。ウクライナ侵攻によって、特に西側諸国を中心にしてロシアに対する経済制裁を加えたことにより、ロシアルーブルは他国の通貨に対して暴落状態にあります。

ウクライナ問題が深刻化する前、ロシアルーブルの対円レートは、1ロシアルーブル=1.65円前後だったのが、ウクライナ侵攻が行われた後、一時は1ロシアルーブル=0.8円程度まで下落しました。ロシアルーブルの価値が半減したことになります。

加えてロシアの株価指数も、昨年10月につけた水準から半値まで急落した後、取引停止状態が続いています。

ロシアの例からも分かるように、新興国投資にはさまざまなリスクがあります。高い経済成長率が期待できる反面、経済基盤が脆弱なので経済混乱、金融不安が生じやすいですし、インフレによる通貨価値の下落リスクもあります。ロシアのウクライナ侵攻に見られるような戦争リスクも無視できません。

ちなみに現状、ロシア株に投資する投資信託は、基本的にすべて追加購入も解約もできない状態になっています。

こうしたリスクを考慮すると、新興国投資はポートフォリオのメインにはなりえません。というよりも、筆者は個人が手を出すのは極めてリスクが高いという認識です。

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