事情が変わった…?

 果報は寝て待て、待てば海路の日和あり、急いては事を仕損じる…「待つ」ことの効用を説く言葉は数多い。だが「裁判」でそれが通用したら、法律関係はいつまでたっても定まらず、紛争は解決できない▲それに近いことが起きようとしているのではないか-の思いが消えない。諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門を巡って2010年に「開門」を命じた確定判決が、後に起こされた裁判の判決で事実上、上書きされ「無効化」されつつある▲25日の判決で、福岡高裁は確定判決について「期限を限った暫定的な性格で、その期間も既に経過した」との判断を示し「事情が変わった」と、開門を強制しないよう求めた国の主張をそのまま認めた▲もちろん、この状況は、開門を求める裁判でも禁じる裁判でも国が負け、身動きできなくなった経過の産物だ。往生際の悪い敗訴者の“ごね得”と単純に言い切れないかもしれない▲ただ「事情の変化」を生じさせたのは他の誰でもない。開門を命じた判決を受け入れ、しかも、その義務は履行しないままで、長い年月を経過させた国自身だ▲シンプルに考えたい。裁判に負けた側が履行を渋るうちに確定判決が書き換わる…これが横行したら司法の信頼や安定性は台無しだ。その前例が国の手で作られようとしている。(智)


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