アカデミーコーチも経験 元楽天の鉄平さんが伝授する「プロ野球選手の育て方」

楽天などで活躍した土谷鉄平氏【画像:(C)PLM】

鉄平さんは昨年まで楽天のコーチ、アカデミーでの指導経験もある

「プロ野球選手になりたい!」 そんな子どもを持つ保護者に、中日、楽天、オリックスでプレーした鉄平さんが「プロ野球選手になる方法」を伝授。アカデミーコーチをした経験を基に「鉄平式プロ野球選手の育て方」を全6回に分けて語ります。第1回のテーマは「子どもが『プロ野球選手になりたい』と言ったら親はどうするべき?」です。

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こんにちは。土谷鉄平です。この度「教えて! 鉄平先生!」というコラムを書かせていただくことになりました。昨年まで楽天でコーチを務め、今年からフリーで活動しています。近年、野球人口はどんどん減少しており、この現状は寂しい限りです。回復させるには、子どもたちに野球を知ってもらうことが不可欠です。自分なりの思いを伝えていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

野球を始めたのは小学1年生で、4年生から試合に出始めて、5年生からレギュラーに。プロでは左打者でしたが、元々は右打者。イチローさんの出現によって左打者への憧れが強くなり、中学から本格的に左打者に転向しました。高校は大分県の津久見高校に行きまして、甲子園は出られなかったですが遊撃手としてプロ入りしました。

プロ野球選手になることを意識し始めたのは中学3年生くらい。実際に「届くかも」と思ったのは、高校1年生の時にスカウトが観に来たことを聞くようになってからです。プロ野球選手になろうと決めてからは、野球に真摯に向き合いました。「生活の一部が野球」ではなく、「生活の全てが野球」。常に野球、特に打撃のことを考えて。どうすれば打てるようになるか、強い打球が打てるかなど、なにか思いついたらひたすら練習をしていました。

自分で練習方法を見つけていました。運が良かった部分もあると思いますが、たまたま好きだった練習が的を射ていました。プロ野球選手になって良かったことは、変な話ですがお給料が高かったこと。他には普通では入れないような場所に入れることです。プロ野球の本拠地球場だって普通は入れないですから。普通に生活をしていたらなかなかできない経験ができました。

ただ、プロ15年間を振り返ってみると、8割以上は苦しかった。しんどかったというほうがいいかな。戦い続けないといけないですし。そのなかで1割程度、報われることがあるかどうかの世界でした。

楽天などで活躍した土谷鉄平氏【画像:(C)PLM】

大事なのは自分に合ったものを吸収していくこと

子どもに「プロ野球選手になりたい!」と言われたら。答えはとてもシンプルです。まずはその夢を応援してあげる。ただ、どの程度サポートしていけるかなど、家庭によってさまざまな形があると思います。できる環境、できない環境は家庭によってさまざまなので一概には言えないですけど、自分の子どもが野球選手に限らず、将来こうなりたいという「目標」を立てることができた。「夢」を持つことができた。まずはその事実に賛辞を贈ってほしいです。

言うか言わないかは別として、「プロ野球選手? 無理でしょ」と思う親御さんは多いと思います。絶対にそれは心の奥底に閉まって、子どもたちの背中を押してあげてください。仮に親から反対されても、子どもたちには諦めずに突き進んでほしい。やると決めたらその目標に向かって走る。親の意見が変わるくらい、努力している姿を見せましょう。

保護者ができるサポートとしては、まずは環境を整えてあげること。お金もかかってきますけど、野球塾を探す、12球団のベースボールアカデミーに連れて行くなど。少しでも多く子どもが野球に携われる環境をつくってあげることが重要です。今の時代だと、動画を探してくるのも一つの手ではあります。こういうのがいいよと見つけてきて一緒に実践できればなお良い。こんな形で一緒に歩んでいけると、子どもも気持ちが乗っていきます。

気を付けてほしいのは、「こうしなければいけない」というやり方はあまり無く、全てはやり方の一つであること。ある程度似た意見もあれば、右打者と左打者で全く違う意見もある。さまざまな人の意見があり、「方法の一つとして発信している」という意識を忘れないことです。これだけ情報量が多い世の中だと、試しすぎるのも危険です。情報を得るのは決して悪いことではありませんが、全てを信用せず、自分に合ったものを吸収していく。憧れの選手に近付こうとするのではなく、1人の野球人としてその技術を取り入れて完成させていくイメージです。材料の一つとして情報を取り入れてください。

有名なプロ野球選手の中には、小学校くらいから「なりたい」じゃなくて「なる」と明確に目標設定していた人もいます。それができればいいですが、一段階手前の部分があります。本当にベタな言い方ですが、「楽しむ」こと。ただし今回は「プロ野球選手になりたい」というテーマなので、勝つことを楽しむとか、技術が身に付く、上達することが楽しいとか。プレーすること自体が楽しいというよりは、もう一つレベルアップした楽しみ方。このようなマインドになれると良いと思います。

「なりたい」から「なる」に意識を変えることで目標に近づく

まずはそこが第一歩。「やるだけで楽しい」から、「うまくいくことが楽しい」「試合に勝てたら楽しい」「ならばこういう練習をしよう」と、つながっていきます。その一歩を踏み出したら、「なりたい」から「なる」に意識を変える。そしてとにかく頭を使って練習をする。短期、中期、長期に分けて目標を立てられると、「プロ野球選手になる」という大きな目標に近付くと思います。

伸び悩んでいる子どもに対して周りの大人がやってほしいのはできるだけ気にさせないこと。できていないから頑張れではなく、スランプを忘れさせるようなアプローチをしてあげる。「最近野球どう?」といった質問でさえ気にしてしまうかもしれない。突き詰めて頑張っている子ほど、うまくいかなくなった時に崩れる可能性があります。忘れさせてあげて、気づいたら元通りになっているのが望ましい。ただし、明らかに体の動きがおかしい場合や、怪我をしてるなど原因が明白な場合は伝えるべきです。

アカデミーで落ち込んでいる子どもに「ミスしない選手なんかいないから」「プロ野球選手でもたくさん三振するし、エラーもいっぱいするから落ち込む必要はないよ」「大事なのはミスをしないためにどうすればいいかを考えることだから」「全然落ち込む必要はないよ。僕も死ぬほど三振してきたし、エラーしてきたから大丈夫。思い切ってやろうよ」といった声掛けはします。気負いすぎるのも良くないし、気負わせすぎるのもよくない。子どものメンタルに関わるデリケートな部分ではありますが、適切な対応を取って忘れさせてあげましょう。

最後になりますが、「プロ野球選手になりたい」と子どもに伝えられた親御さんは、どういう形であれ応援する。目標設定ができたことを喜んでほしいですね。家庭環境にはよりますが、できる限りの環境づくりをしてあげてほしい。子どもが気負わずのびのびと野球ができるような接し方が望ましいです。

◇土谷鉄平(つちや・てっぺい) 1982年12月27日生まれ、大分県大分市出身。津久見高校から2000年ドラフト5位で中日に入団。2006年に楽天へ移籍し、2009年に打率.327で首位打者に輝いた。オリックスへの移籍を経て2015年限りで現役引退。引退後は楽天アカデミーコーチ、2軍外野守備・走塁コーチ、2軍打撃コーチを務めた。現在は球団を離れ、野球解説者として活躍の場を広げている。(「パ・リーグ インサイト」編集部)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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