練習時間の短さはハンデにならない 「部活動指導員」が語る究極の練習法とは

中学部活指導員を務める家城雅一さん【写真:本人提供】

東京・三鷹二中の野球部部活動指導員・家城雅一さんが短い練習時間で行っていること

公立中学校の部活動で、顧問に代わりに指導を行う外部の指導者を部活動指導員と呼ぶ。身分は学校の職員。東京・三鷹市立第二中学校野球部を指導する家城雅一さんは、メンタルコーチの資格を活かし部活動改革に取り組んでいる。前回は中学部活動のメリットを紹介したが、今回は1日の中で限られた時間での練習方法について。時間制限のハンデは「知恵の絞りどころ」であるといい、子どもの主体性を重視した練習法を提唱。教育的観点からも子ども中心のチーム作りが重要であると説く。

――具体的な実践例をお伺いしたいんですが、練習の中で最も力を注いでいることは何でしょう?

平日は1日2時間しか活動できません。しかも校庭を使えるのは1時間だけ。そういう中で、いかに効率良く質の高い練習をして、子ども達を成長させるか。メンタルコーチングの手法も取り入れ、知恵を絞ってきました。

――その結果、どのような練習法になっているのですか?

練習内容を実戦形式とミーティングだけにしました。ウォーミングアップを済ませたら、子どもたちだけでミーティングをします。その日、何を頑張るのか1人ひとり、考えさせるんです。それから2年生チームと1年生チームで3イニングの試合。20~30分で終わりますから、今日はどうだったかという、振り返りのミーティング。毎日、この繰り返しです。

――試合中にサインは出すんですか?

一切、口出しはしません。だから子どもたちが自主的に動くようになる。真剣にどうやって1点取るのかを、考えていますよ。「こんな場面でエンドランするんだ」とか「ここで盗塁しちゃうんだ」とか、想像もつかない作戦が出てきて、僕自身も勉強になります。

――ミーティングは形式的なものになりがちですが、何か工夫はされていますか?

最初に「主将、副主将中心に3分以内で話しを終わらせよう」とレクチャーしました。イニング間で集まったときって、数えてみても3分ないですよね? 時間は限られています。そうすると子どもたちが、短い時間で何を話すか、一生懸命に考えるんです。繰り返していくうちに、ファシリテーションスキル(物事をスムーズに進めようとする調整力)がどんどん上がっていく。これも限られた時間をいかに有効に使うかというところから生まれた効用ですよね。

試合で「何対何で勝ちたいのか?」…この問いかけが持つ大きな意味とは

――“家城さん式”の練習法では、毎日の練習テーマを子ども達が設定するということですね。

そうです。今、「教えないスキル」が流行ってるじゃないですか。でも教えない指導者なんていませんよ。では、教えないスキルとは何かというと、答えを子どもたちから、引き出してあげることだと思うんですよ。

――少年野球も15年近く、指導をされていましたが、年齢によって指導方法は様々なんですね。大きくなればなるほど、大人ではなく子どもたちが考えながら、チームを作っていくということですか。

私にもこういうチームにしたいという考えはあります。でも大事なのは指導者のやり方を押し付けるんじゃなくて、子どもたちがどういうチームにしたいのか考えさせることなんじゃないか、と。私は新チームなった時に、必ず(試合で)「何対何で勝ちたいのか?」ってスコアのイメージを聞きます。常に練習でその点数を子どもたちに問いかける。「それで8点取れるの?」、「3点以内に抑えるにはどうするの?」といった感じにしています。

――問いかけることで、子どもたちがそのスコアで勝つために、どういう練習をすればいいのか考えるわけですね。

「8点どうやってとりたい?」と聞いて、「打って取ります」と返ってきます。「スクイズは絶対にしないの?」と聞いて、「しないで負けても、後悔ありません」と答えたら、バントの練習はしなくてもいいんです。それが正解かはわかりませんけど、限られた時間でどう練習するか考えた時、一つのやり方なのかなという気はしています。

――相手のチームレベルうんぬんの問題ではなく、自分たちがどうやって戦っていくのか。そういう考えを子どもに植え付けることで、主体性を持たせている気がします。指導者は子ども達がチームを作っていくサポート役なんですね。

チームという枠があって、その中に子どもたちが入ってきた時に、収まりきらず飛び出た部分が、チームの強みだと思うんです。子どもを型にはめるのではなく、はみ出た部分を大事にしていく。教育的観点からいっても部活動では、そういうチーム作りをすべきではないかと考えています。

○家城雅一(やしろ・まさかず)1960年5月27日生まれ、東京都出身。桐蔭学園中学、高校で野球部に所属し選手として技術を磨き、大学までプレー。日本マクドナルドで少年軟式野球などスポーツマネージメントに携わるかたわら、指導者として世田谷区の学童野球チームの監督を15年経験した。2012年に日本スポーツ協会の公認コーチ資格を取得。2015年にスポーツメンタルコーチ認定資格を取得し、2017年8月からは三鷹市立第ニ中学校の部活動指導員として野球部の指導にあたっている。

家城さんら4人のスポーツメンタルコーチが、それぞれの強みを生かし、ジュニア世代にメンタルトレーニングを実践している「せたがやHERAT-LAB」で、親コーチ向けオンラインイベントを開催しています。次回のテーマは「もっとチームの役に立ちたい! 親コーチ勉強会」。子どもの自主性を高めるための「効果的な声かけ法」を学ぶ勉強会です。

開催日時:2022年4月14日(木)20:00~21:30
開催方法:オンライン(Zoom)
※お申し込みのあった方へ、当日のZoom URLをお送りします。
参加費:無料
ホームページ:https://www.setagayaheartlab.com/(石川哲也 / Tetsuya Ishikawa)

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