プロ野球広島の森下暢仁が、開幕カードのDeNA戦で見事な「二刀流」を披露した。
3月26日の第2戦の先発を任された森下は、8回を3失点に抑えて今季初勝利。だが、この日のハイライトはピッチングではなく打撃だった。
3回の初打席で中前に安打すると、その後も右に左に打者顔負けの打撃で3安打3打点。広島の投手の“猛打賞”は、1998年のヤクルト戦で加藤伸一が記録して以来、24年ぶりの快挙となった。
森下の活躍で勢いに乗ったチームは、開幕カード3連勝と最高のスタートを切った。
明大時代は主に5番を務め、3年春には規定打席不足ながら4割を超す打率を残している。
昨年5月のヤクルト戦では、森下の打撃の良さに期待して、佐々岡真司監督が8番打者に送りバントを命じたこともある。
広島は今季から鈴木誠也がメジャーリーグに挑戦、カブスへの入団が決まった。
不動の4番打者不在でチームの弱体化が心配されているが、その穴は全員で埋める覚悟で投手も例外ではない。そんな気迫を感じる森下の打席だった。
日本時間の4月8日に開幕するメジャーリーグでは、今年も大谷翔平(エンゼルス)の話題で持ち切りだ。
今季から、エンゼルスが所属するア・リーグ同様ナ・リーグでも指名打者(DH)制が採用されることで、交流戦で大谷の打席数が増えると予想されている。
昨年は本塁打王争いに敗れた大谷だが、ナ・リーグでもDH制が採用されれば、当然打席に立つ回数も増えてキングも夢ではない。
さらに今季からのルール改訂で、DHで出場した投手が降板後もDHとしてそのまま出場が可能になった。いわゆる「大谷ルール」である。いずれも、大谷の存在が長いメジャーの歴史を塗り替えた格好だ。
そこで注目されるのがセ・リーグの今後の動向だ。
数年前からセ・リーグでもDH制採用の議論は始まっている。巨人の原辰徳監督が提唱したもので、DHを取り入れるパ・リーグとの実力差が広がりつつあると危惧し、下位打線まで強打者が並ぶことで、よりダイナミックな野球を提供できるという趣旨だ。
昨年も巨人からコロナ禍の特例措置として同制度の採用が提案されたが、反対多数で実現しなかった。
反対する球団の本音は、DH制を採用するとレギュラークラスの選手が増え、人件費の高騰につながるからと言われている。
だが、世界の野球の趨勢はプロリーグも国際試合もDH制に移行している。
セ・リーグだけが時代の流れから取り残されるわけにはいかず、近い将来決断の時がやって来るだろう。
日本球界の長い歴史を振り返ると、投手の打撃も数々のドラマを生んできた。
400勝投手の金田正一(元国鉄、巨人)は打者としても通算38本塁打を記録、うち2本は代打によるホームランだ。
西鉄(現西武)黄金期の大エース・稲尾和久は1958年の巨人との日本シリーズで6連投。中でも第5戦では4回から延長10回までを力投、最後は自らサヨナラ本塁打を放っている。
新しいところでは、2016年に広島からメジャーのドジャースに移籍した前田健太が、同年のパドレスとの初先発試合で自ら一発を放って本場ファンの度肝を抜いた。
このシーズンでは代走に起用されたことからも、万能選手の片鱗がうかがえる。
セ・リーグでは、好投を続ける投手に代打を告げられる場面がしばしば見られる。
投手によるバントの巧拙が思わぬドラマを生むこともある。そして、森下のような野手顔負けの打撃が試合を支配することもある。
今シーズン「代打・森下」のコールが佐々岡監督から告げられるかもしれない。
投げて、打って、走る。大谷ほどのスケール感はなくても、広島の好投手に新たな楽しみが加わったことは間違いない。
荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル
スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。