【高校野球】監督の指示に“進言”してタイムリー イチロー氏称賛の「考える野球」で残した爪痕

準決勝第2試合は国学院久我山が大阪桐蔭に4-13で敗れ決勝進出はならず

大阪桐蔭相手に6回表終了時0-11から見せた反撃

第94回選抜高校野球大会は30日、阪神甲子園球場で準決勝が行われ、第2試合で国学院久我山(東京)が大阪桐蔭に4-13で敗れた。昨年11月末にイチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)から直接指導を受け、同氏から称賛された「考える野球」で初のベスト4入りを果たしたが、優勝候補本命に及ばず。それでも夏へ向け、確かな爪痕を残した。

「全てにおいて、状況を多角的に見ながらゲームを進めていく。それが本校の目指す“考える野球”ですが、きょうの試合は序盤に受けて立ってしまい、思考が止まってしまった所がありました」。31歳の尾崎直輝監督は、残念そうに振り返った。

相手の大阪桐蔭は、昨秋の明治神宮大会覇者で、2日前の準々決勝・市和歌山戦で大会タイ記録の1試合チーム6本塁打を放ち17-0で爆勝したばかりだった。久我山ナインもその勢いをまともに受けてしまい、6回表終了時点で0-11。打線も相手先発の川原に、3回までパーフェクトに抑えられていた。

とはいえ、やられっ放しでは終わらない。4回2死から2安打を放って落ち着きを取り戻すと、6回1死二、三塁では、3番・木津寿哉外野手(2年)が右前適時打を放って2点を返した。

尾崎監督は序盤、ナインを落ち着かせようと、各打者にじっくりボールを見ていくことを指示していた。しかし木津はタイムリーを放つ直前、「自分としては早いカウントの方が打ちやすい」と申し出た。実際、初回の第1打席では6球目を打って二ゴロ、4回の第2打席では4球目を打って遊ゴロに倒れていたが、この打席では初球の真ん中の135キロ速球を鮮やかにとらえた。

尾崎監督は「もともと、私の考えを押しつけているわけではなく、試合の中で選手たちとやり取りをしながら進めています」とうなずいた。木津が自分の意見を訴えてきた姿を見て、普段通りの久我山野球が戻ってきたと感じた。

上田主将「“久我山野球”を貫いてこられたのは、イチローさんの言葉があったから」

守備では、過去の映像やデータをもとに相手打者の傾向を分析し、内野手は味方バッテリーの配球も加味しながら細かくポジショニングを変えている。二塁手の上田太陽主将(3年)は「今日も徐々にその通りに打球が来て、アウトを取れるようになりました」と話す。

イチロー氏は久我山を直接指導した際、「全員で考える野球は素晴らしい」と称賛したという。尾崎監督は「イチローさんには、本校のスタイルが間違っていなかったと評価していただき、背中を押していただきました」と認め、上田も「自分たちが“久我山野球”を貫いてこられたのは、イチローさんの言葉があったから」と感謝した。

ただ、この試合に限っては、大阪桐蔭に力負け。上田は「改めて、大阪桐蔭さんは個々のレベルが高いと感じました。1対1になったら絶対負けてしまう戦いだったので、全員野球で挑んだのですが、序盤に少し引いてしまった。個々のレベルでやられてしまった感じです」と吐露。「(大阪桐蔭の)打者は甘いボールを絶対に逃さないし、相手を助ける野球は絶対にしない。そこに自分との差を感じました」と説明した。

確かに、プロ注目の素材がズラリと並ぶ大阪桐蔭に対し、がっぷり四つに組んで戦えるチームは、全国を探しても数少ないだろう。しかし、久我山がこれまで取り組んできた「考える野球」に磨きをかけていく先には、強豪に一泡吹かせる方法も見えてくるはずだ。

試合終了後、泣いている選手もいる中で、尾崎監督は「悔しい負け方だが、結果だけを見てダメだと思うな。絶対ここへ帰ってくるんだ。勝負は夏だぞ」と話したという。久我山ナインの成長を、イチロー氏もきっと楽しみにしている。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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