無責任で愚かな「降伏論」にウクライナ人が国会で反論!|和田政宗 テレビのコメンテーターなどがウクライナがこのまま戦うと人命が失われたり被害が広がるから、降伏したほうがよいという論を展開しているが、果たして本当にそうか。ウクライナ人の国際政治学者グレンコ・アンドリーさんは国会で「降伏は更なる殺りくにつながるだけなので、最悪の選択肢」と述べている。ウクライナ国民が置かれた困難な状況に対して、日本は何ができるのか。

「キエフ」から「キーウ」に変更した理由

3月31日、私を含め自民党議員などが外務省に働きかけてきたウクライナ首都の日本における呼称が、「キエフ」から「キーウ」に変更された。政府として、ウクライナの各都市をロシア語読みからウクライナ語読みに変更するもので、ウクライナ政府の意向も聞き実施した。例を挙げると、「オデッサ」は「オデーサ」に変更、「チェルノブイリ」は「チョルノービリ」に変更される。

ウクライナのゼレンスキー大統領からは早速謝意が述べられた。大統領はツイッターで、「私たちの都市名について時代遅れのソビエト連邦式の表記を破棄し、正しいウクライナ語の呼び方が採用される時が来ました。日本がすでに改めたことに感謝し、他の国々にも勧めます」と発信した。こうしたウクライナ語読みへの変更は、ロシアの侵略を許さずウクライナ支持を明確にするためにも重要である。

そうしたなか、ロシアのウクライナ侵略は激しさを増し、各都市において民間人が攻撃される悲惨な状況となっている。米国のブリンケン国務長官は3月23日、ロシア軍が故意に民間人を攻撃しているとして、米国政府としてロシアが戦争犯罪を行っていると認定したと発表した。

すでにご承知の通り、ウクライナ南東部のマリウポリでは産科病院や市民の避難場所になっていた劇場が攻撃され、多数の市民が亡くなるなど、民間人への攻撃が強まっている。なぜ、ロシアは民間人への攻撃を行うのか。それは多くの民間人の犠牲者を出すことで、ウクライナ国民の侵略に抵抗する意思を奪う、多くのウクライナ人に「もう耐えられない」という状況を作ることである。

こうした分析は、3月29日に参院外交防衛委員会に参考人として招かれたウクライナ人の国際政治学者グレンコ・アンドリーさんも述べている。

しかし、ウクライナ国民は頑強にロシアの侵略に対抗しており、攻撃が激しさを増しても降伏をせず、最後の一人になるまで戦うという意志がウクライナ国民からは示されている。

「降伏したところで人命は救われない」

私は参院外交防衛委員会において、グレンコ・アンドリーさんにこう質問した。
「ロシアの侵略について、テレビのコメンテーターなどが、ウクライナがこのまま戦うと人命が失われたり被害が広がるから降伏したほうがよいという論を展開しているが、これについてどう思うか」

グレンコ・アンドリーさんは、
「降伏したところで人命は救われない。ロシアはウクライナの中立化ではなく完全支配を目指している。なので、降伏すればウクライナ人が大量に殺されたり投獄をさせられる」「降伏は更なる殺りくにつながるだけなので、最悪の選択肢」と述べた。

グレンコさんはさらに、こう話した。
「全土が制圧されたら全土で殺りくが行われるようになるので、決して降伏は人命救助
につながらない。現実を見た上で、冷静に見てどうすれば、より少ない犠牲で済むのかというふうに考えるべきだ」

この発言は、犠牲を少なくするためには、ウクライナ国民の強い精神だけでなく、我々自由主義陣営の国々がいかに率先して和平を仲介し、ロシア軍をウクライナから撤兵させるかということを問うている。

そして、グレンコさんはこうも述べた。
「仮にゼレンスキー大統領が降伏しても、ウクライナ国民は抵抗を続ける」

こうしたウクライナ人の強い意志は、他のウクライナの友人からもひしひしと感じている。3月末、私が講師として定期的に参加している静岡の勉強会に、友人であるウクライナ人の青年、ナザレンコ・アンドリーさんが参加された。ナザレンコさんは、ロシア軍の猛攻に遭っているウクライナ第2の都市ハルキウの出身である。

ナザレンコさんによると、ハルキウの実家の周りは軍事施設は何もないのに、ミサイル攻撃で壊滅的な状況になっている。ナザレンコさんが学んだ小中一貫校も砲撃され、壁に大きな穴が開き、教室も滅茶苦茶に破壊された。しかも一度だけでなく二度も攻撃を受けたとのことである。

日本が和平と撤兵の仲介をすべき!

そして、ナザレンコさんも、最後の一人になってもウクライナ国民は戦うと述べた。

その理由は祖国を守るということが大前提の上で、ロシアにはさんざん「兄弟国」だと言いながら騙されてきたこと、今回も直前まで「ウクライナには絶対侵略しない」と言いながら、侵略してきたことなどから、絶対にロシアを国として許すことはできないという感情になっているとのことである。これはロシア国民に対する憎しみではなく、ロシアという国家とプーチン大統領に向けられたものである。

平和を希求するのに祖国を守るために戦わざるを得ず、かつロシアに占領させたり完全制圧させないという頑強な精神のもと、ウクライナ国民は行動している。このウクライナ国民が置かれた困難な状況に対し行動しないことは、日本政府としても日本国民としてもあり得ないと考える。

外交関係者のなかには、「和平後の対ロシア関係を考えると、日本はG7に追随すれば良い」と述べる人もいる。しかし、今はあらゆる手段をもってロシアの侵略をやめさせ撤兵させることが必要だ。その後の外交関係などを考えて行動するより、これを何よりも優先すべきだ。

私は繰り返し述べてきたが、日本が率先して和平と撤兵の仲介をすべきである。これは、先の大戦において我が国の先人たちが、欧米の占領下、植民地下に置かれているアジアの諸民族の独立、解放のために戦ったことを鑑みても、今、民族の独立と繁栄が存亡の危機にさらされている国や民衆があるならば、先人たちの子や孫の代である我々は、率先して困難にある国と民衆を救うために行動すべきだ。

日本の外交力に期待する各国の考えをもってしても、日本が行動しないことはあり得ない。政府の奮起を促したい。

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和田政宗

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