「パワハラ防止法」が中小企業でも適用…“〇〇ハラ”急増で多様化するハラスメント

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。3月25日(金)の放送では、特別企画「モニフラZ議会」を開催。Z世代の論客が、“パワハラ防止法”と多様化する“ハラスメント”について議論しました。

◆パワハラ防止法が適用されるも件数は過去最多に

職場でのいじめや嫌がらせを防止するための「パワハラ防止法」。大企業では一昨年の6月から適用されていましたが、2022年4月からは中小企業にも適用開始。しかし、課題もあり、就業規則への明記や相談窓口の設置が義務化されるものの、罰則はありません。

20代~40代の会社員へのアンケートでは、7割以上がパワハラ防止法による改善は「期待できない」と回答。

実際、パワハラの被害件数は増加傾向にあり、2020年度には97,000件を超え過去最多に。ハラスメント対策の専門家・山藤祐子さんは「日本企業はハラスメントの温床」とし、年功序列や同調圧力、ジェンダーギャップが、ハラスメントに繋がっていると指摘しています。

こうした状況に、臨床心理士のみたらし加奈さんは「ハラスメントはこうだという定義付けが生まれたからこそ、声を上げやすくなったり、訴えやすくなった方は多いのでは」と率直な感想を述べます。

かたや、アフリカの紛争問題を研究する東大院生の阿部将貴さんは、中小企業が本当に相談窓口を設置することができるのか危惧。

一方、生理への理解を広げる団体「#みんなの生理」共同代表の谷口歩実さんは、「相談窓口設置には反対」と異を唱えます。というのも、窓口を設けることで個人の責任になりかねないから。「ハラスメントを受けた際、自分が相談しなかったから悪い、解決に繋がらなかったとなりかねない」と懸念し、「日本企業は、いかに会社の雰囲気に合わせて自分がなんでもやるかで評価されるので、まずそこを変えないとハラスメントは減らない」と構造的な問題を示唆します。

ここでみたらしさんは「基本的に加害者は悪意を伴っている自覚がなかったりする」と加害者の心理を分析し、「それを判断するのは司法の場であり、加害行為に悪意があったかは、本来関係ない。被害者が加害行為だと認識した時点でそれは加害行為」とハラスメントを定義。

しかし、世間的にはその考えが浸透していないこともあってハラスメントの判断が難しく、声を上げづらいため、その対策として「傍観者を作らないことが大事」と主張し、ストリートハラスメントの対処法「5D」を紹介。それは直訳すると「気を逸らす」、「誰かに頼む」、「記録する」、「直接言う」、「後から行動する」で、「傍観者にならないためにできることはたくさんあるので、そうしたことを周りが学習することでハラスメントをなくしていく構造がいいのではないか」と力説します。

◆多様化するハラスメント、それはいいことなのか?

ハラスメントに関して、上司世代は近年かなり過敏になってきているようですが、いまやハラスメントの種類は多岐に渡ります。例えば、残業時間削減のための具体策を示さずに定時で退社・時短を強いる「ジタハラ」や、ハラスメントだと過剰に主張する「ハラハラ」というものも。

しかもそれは職場だけに限らず、専門家は「◯◯ハラを利用している面も散見される」とし、本来のハラスメントという言葉が軽んじられていると案じています。

キャスターの堀潤は、「メディアのアプローチも良くない、伝える側としては安易にムーブメントに乗っているところもあるかも」と憂慮していると、こうしたハラスメントの乱立に、谷口さんも「数が多くなれば本質が伝わらなくなってしまう」と憂います。

例えば、年齢差によるハラスメント「エイハラ」や「セクハラ」は英語にすると"エイジズム”、"セクシズム”と日本語で言う「差別」と訳されるそうで「それがハラスメントとなると軽く感じ、なぜダメなのか伝わりにくくなってしまうのでは」と疑問視。

他方、阿部さんは「(この問題は)制度や仕組み、法律をガラッと変えて変わる問題ではない。一人ひとりが敏感に向き合わないといけない」と主張。そして、声を上げづらい状況を理解しつつも「"権利の上にあぐらをかく者は救済されない”という言葉があるように、被害を受けたなら声を大にして言う。残念だがそれしかない」とも。

そして、みたらしさんは臨床心理士としての立場から、ハラスメントが乱立する背景について「加害行為に悪意が伴っているか否かは関係ないからこそ、名前をつけないと加害行為をしているかわからない状況もある」と言います。

ただ、ハラスメントを他人が定義しないとわからないというのは「人権教育の敗北」とも。それを防ぐためにも自身のアウトプットを見直しつつ、もしもハラスメントをしてしまったらしっかりと謝罪し、再発防止に努めること、さらには改めて「傍観者を作らないこと」、「コミュニケーションのあり方の見直し」を訴えます。

先の専門家は、ハラスメントの改善策について「企業や行為者に罰則を設けること」、「再発防止のトレーニングを充実させること」を挙げています。

阿部さんは「戦争体験ではないが語部を作る。どういった被害を受け、どれだけ苦しかったのか、生の声で伝えることも必要」と提言。

一方、谷口さんは当事者の声とともに、日本社会の構造的な変化を切望。そのためにも「個人間のものに終始するのではなく、仲間を集めみんなで声を上げる。声を上げる方法もいろいろあると思うので、さまざまなチャンネルを使っていくべき」と訴えていました。

※この番組の記事一覧を見る

<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag

© TOKYO MX