債券は比較的安全なイメージでもルーブル建ての場合…新興国投資の高い利率と怖いリスク

前回、投資信託を中心にして新興国投資のリスクについて説明しました。今回は、「グリーンボンド」など個人向けに発行・売り出しが行われているインパクト・インベストメント債券について取り上げたいと思います。


個人向けサスティナブル投資の残高は4兆円

インパクト・インベストメントとは、経済的な利益を追求するだけでなく、貧困や環境など社会課題の解決を図るための投資のことです。ここ数年、SDGsが注目されるなか、金融業界としてそれに資することができないのかという問いかけから誕生しました。

今回、取り上げる「インパクト・インベストメント債券」は、開発途上国の子供たちにワクチンを提供する、マイクロファイナンス機関への投融資を行う、地球温暖化対策事業を支援する、クリーンエネルギー開発事業を支援するといったことに必要な資金を調達するために発行される債券のことです。

実は、意外と歴史は古く、2009年9月の第5回クリントン・グローバル・イニシアティブで「グローバル・インパクト・インベスティング・ネットワーク」が立ち上がったことをきっかけにして、世の中に広まった概念だと言われています。

NPO法人日本サスティナブル投資フォーラムが今年1月に集計・公表したデータによると、2021年9月末時点における個人向け金融商品を通じてのサスティナブル投資残高は4兆300億円で、このうち投資信託が3兆4,778億円、社会貢献型債券(インパクト・インベストメント債)が5,522億円となっています。

新興国通貨建てで発行されるインパクト・インベストメント債

「社会課題の解決に必要な資金を調達するための債券」などと言われると、自分自身が積極的に社会貢献に関わっているような気になり、応援の気持ちを込めて投資したくなる人もいると思います。社会貢献が目的である以上、大きく元本を割り込むような、ハイリスクの商品性からは最も縁遠いところにある金融商品というイメージもあるかも知れません。

では、実際にはどうでしょうか。前出のNPO法人日本サスティナブル投資フォーラムが集計・公表したデータを見ると、「???」と、思わず首を傾げてしまいたくなりそうなインパクト・インベストメント債券が、すでにたくさん発行・売り出されていました。

一例を挙げてみましょう。

恐らく、これがインパクト・インベストメント債券の嚆矢になると思うのですが、2008年3月に発行された「予防接種のための国際金融ファシリティ」債は、南ア・ランド建てでした。そのお陰(?)で年9.90%という高い利率が実現しているのですが、この手の新興国通貨は利率が高い反面、国のインフレ率も高いため、通貨安になりやすいというリスクがあります。

実際、同債券が発行された2008年3月時点の南ア・ランド/円のレートを見ると、1南ア・ランド=12円50銭前後だったのが、一時は1南ア・ランド=8円40銭前後まで南ア・ランド安が進みました。その後は元の水準まで戻り、償還を迎えた2010年3月時点では1南ア・ランド=12円前後だったので、為替はやや負けたものの、年9.90%という高い利率のお陰で、円ベースでの元本割れは避けられました。

しかし、為替で大きくやられた債券もあります。2018年3月発行の「クレディ・アグリコル・CIB」債は、年11.60%という非常に高い利率を出していましたが、この債券の発行通貨はトルコ・リラです。2018年3月のトルコ・リラ/円は、1トルコ・リラ=27円前後でしたが、同債券が償還を迎える2021年3月時点では、1トルコ・リラ=14円前後まで下落していました。いくら年11%という高い利率が得られたとしても、この間にトルコ・リラは対円で48%も下落していますから、完全な元本割れです。

ルーブル建て債券の末路

他にも、インパクト・インベストメント債券のなかには新興国通貨建てで発行されているものが結構含まれています。前述の南ア・ランド、トルコ・リラ以外にも、メキシコ・ペソ、インドネシア・ルピア、ブラジル・レアル、そしてロシア・ルーブルもあります。

ルーブル建てで発行されたインパクト・インベストメント債券は、2019年8月30日が受渡日になっているもので、発行体は世界銀行。利率は年5.66%で、償還までの期間は3年でした。

2019年8月30日時点の為替レートは、1ルーブル=1.7円前後でしたが、ウクライナ侵攻の影響で、2022年3月時点では1ルーブル=1.2円前後まで急落しています。30%ほど対円で値下がりしているので、仮にルーブルがこの水準を維持できたとしても、償還時には元本割れになるでしょうし、瞬間につけた1ルーブル=0.8円前後の最安値水準にまでさらに下がったら、為替だけで大損害が生じます。

ちなみに発行体である世界銀行は、債券格付けが「AAA」という最上位格付けを取得しています。この格付を見たら、まさか自分が投資した世界銀行債が大幅な元本割れで償還されるなどとは、夢にも思わないでしょう。

でも、それが現実に起ってしまうのが、新興国通貨投資の怖いところなのです。

債券というと、発行体によって元利金の支払いが保証されている、比較的安全性の高い投資対象というイメージがあります。しかも発行体が、世界銀行のように高い信用力を有していればなおさらです。それでも、このような事態が起こってしまうのです。

確かに高い利率は魅力ですが、その源泉が何なのかということにはくれぐれも留意して下さい。特に新興国通貨で発行していることが高金利の源泉だとしたら、為替の値動きで高いリスクを背負う恐れが十分にあるのです。

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