<社説>ウクライナで「虐殺」 戦争犯罪の徹底究明を

 目を背けたくなる惨状である。ロシア軍が撤退したウクライナ首都キーウ(キエフ)近郊で、多数の市民の遺体が確認された。犠牲者数は拡大する見通しだ。 ロシアが虐殺した疑いが強まっている。戦争犯罪をただちに中止するよう要求する。国際機関はウクライナに調査団を派遣し、この残虐な行為の真相を徹底的に究明してもらいたい。

 ロシア軍撤退後、ウクライナ当局はキーウ州ブチャで民間人410人の遺体を確認した。同州ボロディアンカではブチャを上回る被害だという。南東部マリウポリではロシア軍が病院や避難所を攻撃し多数の犠牲者が出たとして批判が強まっている。

 ロシア側は「住民に手を出していない」(国防省)と虐殺への関与を否定し、ウクライナ側の捏造(ねつぞう)だと主張した。だが、現地入りした外国メディアなどが路上に散乱する平服の遺体や、民家内で手足を縛られた遺体など虐殺の「証拠」を記録している。

 米国務省のプライス報道官は「われわれがブチャで目撃したことを臆面もなく否定し、自らの凶悪な行動を他人のせいにし続けている」と批判。「市民が拷問され、レイプされ、処刑されたとの信頼できる報告がある」と強調した。

 ジュネーブ条約など戦時国際法は民間人に対する攻撃、病院など生活に不可欠なインフラへの攻撃、拷問やジェノサイド(大量虐殺)などを戦争犯罪として禁じている。住民の4人に1人が犠牲になった沖縄戦をはじめ、多くの市民が犠牲になった第2次世界大戦の教訓から生まれた。

 戦争犯罪は、国家間の紛争を扱う国際司法裁判所(ICJ)と、戦争犯罪を行った個人を訴追する国際刑事裁判所(ICC)が対応する。

 ICJは3月中旬にロシアに軍事行動の即時停止を求める暫定措置を命じたが、ロシアは従っていない。ICCは既に捜査を始めた。ロシアはICCに加盟していないが、犯罪を否定するなら、捜査に協力すべきだ。

 国連憲章第2条は「すべての加盟国はその国際紛争を平和的手段によって(中略)解決しなければならない」「武力による威嚇または武力の行使を(中略)慎まなければならない」という原則を定めている。第2次世界大戦後の国際秩序の根幹を成す重大な原則の一つだ。

 しかし、国連安全保障理事会常任理事国として拒否権を持ち、ウクライナ侵攻当事国のロシアが、この国際秩序を否定し、安保理が全く機能していない。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、安保理で演説しロシアの軍事侵攻を「最も恐ろしい戦争犯罪」と非難し、ロシアを罰することができるよう国連改革に向け「直ちに行動する必要がある」と呼び掛けた。日本は改革へ向けリーダーシップを発揮するよう繰り返し指摘しておきたい。

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