<社説>第6次沖縄振興計画 変革の一歩自ら示そう

 玉城デニー知事は、第6次沖縄振興計画にあたる「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」最終案を発表した。「安全・安心で幸福が実感できる島」を指針とし、沖縄の自立的発展と県民一人一人が豊かさを実感できる社会に向けた今後10年の施策を列挙した。 沖縄振興体制には「政府の裁量が大きい構造的課題」(宮城和宏沖縄国際大教授)などの指摘がある。計画に掲げた諸問題の解決を画餅に終わらせないためにも、県自らで現状の変革に踏み出す主体性を示してもらいたい。

 沖縄の施政権返還から50年の節目にあたり、振興の原点に立ち返りたい。復帰前年の1971年に琉球政府の屋良朝苗主席(当時)が日本政府に申し入れた「復帰措置に関する建議書」(屋良建議書)は、沖縄開発の基本的理念の中でこう記している。

 「本土においては大企業中心の高度成長政策が推進されるにつれて、過密、過疎化、都市問題、公害問題などの進行、激化をみるにいたり(中略)沖縄開発にあたっては、このような本土の轍を踏むことなく、あくまで人間主体の開発でなければなりません」

 復帰後の国庫補助率かさ上げや税制優遇で、社会資本整備、県外企業誘致は進んだ。その半面で中南部の都市化と離島の人口流出、自然景観の改変など、建議書が危惧した「本土の轍」を踏んできた側面を指摘せざるを得ない。

 県が昨年実施した県民意識調査では、県民間の経済格差が「広がった」と回答した人が34.3%に上り、ここ10年間で最も高い値を記録している。県民所得の低さや非正規雇用割合の高さなど、「人間主体」の理念から乖離(かいり)した現状を省みなければならない。

 新たな振興計画の根拠となる沖縄振興特別措置法は3月末に国会で成立したが、中身は従来の延長であり、課題を踏まえた見直しはなかった。振興の効果や在り方について十分な議論が喚起されないまま、既存制度の維持を県が政府に要請してきた印象は拭えない。「自立的発展」を掲げながら、国や制度への依存を深めていないだろうか。

 新振計最終案は米軍普天間飛行場に関し「県外・国外移設を追求」と明記し、辺野古移設によらない解決策の検討を初めて盛り込んだことは評価したい。日米両政府が新基地建設を強行し、沖縄を対中戦略の最前線に位置付ける中で、振興策に基地問題を絡め取られることなく、県民益の立場に立って平和を創造する県政の決意が問われる。

 屋良建議書は「基地の撤去を前提としない限り、真の意味で恒久的な開発計画の策定は不可能であり、自由かつ平和な社会の建設などは到底望めません」と明快だ。

 既存の制度が本当に沖縄の豊かさにつながってきたのかという県民主体の検証と議論を通し、自治権の尊重という理念追求の歩みを止めないことが求められる。

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