会社員とフリーランスで社会保障はどう違う?独立する前に知っておきたい、年金や保険の格差対策

会社組織に所属せず、個人で業務を請け負い事業を行うフリーランスという働き方があり、近年注目されています。そんなフリーランスの立場になる前に、理解しておく必要があることに会社員との社会保障面での違いがあります。

今回は、フリーランスの方の社会保障について解説していきます。


会社員とフリーランスの加入する社会保険の違い

社会保障制度とは、「社会保険」「社会福祉」「公的扶助」「保健医療・公衆衛生」を総称したもので、国民が相互に連帯して支え合い、必要な生活保障を行うセーフティネットです。会社員からフリーランスになると、加入する社会保険が変わることにより、年金や健康保険に違いが生じます。。

厚生年金と国民年金

日本の公的年金制度は「二階建ての制度」と言われており、1階部分が国民年金、2階部分が厚生年金となっています。

画像:日本年金機構「公的年金の種類と加入する制度」より

会社員は国民年金の第2号被保険者に該当し、法人企業に一定条件以上で勤務する会社員は原則として厚生年金に強制加入することになり、保険料は給与天引きされます。公的年金受給の際には1階部分の国民年金部分に加え、2階部分の厚生年金も合わせて受け取ることができます。

一方、フリーランスの方は第1号被保険者として国民年金保険料を支払うことになります。公的年金受給の際には1階部分の国民年金のみ受け取ることができます(※)。※会社員時代に厚生年金に加入していれば、加入期間に応じて給付を受けられる
これらがどの程度の差になるかを見てみましょう。

画像:厚生労働省「教えて!公的年金制度 公的年金制度はどのような仕組みなの?」より

厚生年金はそれぞれの報酬、加入期間によって変わってきますが、サラリーマンの平均で計算すると上記の表の様になります。その人の働き方、モデルケースによって異なりますので一概に言えませんが、この場合の公的年金の給付額は月額にして97,000円も差がついていることがわかります。

また、公的年金制度は老後に受け取ることができる老齢年金のみでなく、遺族年金と障害年金といった生命保険のような保障機能もあり、その2つも厚生年金に加入しているか否かで差が出ます。

例えば、小さな子どもがいるお父さんに万一があった場合、会社員で厚生年金加入していれば遺族厚生年金を受け取ることができ、中高齢寡婦加算も受給できる場合があります。しかし、フリーランスは厚生年金は原則として受けることができず、その場合に遺されたご家族が受け取ることができる遺族年金の受け取り総額は、1,000万円以上もの差になることもあります。障害年金についても計算の仕方は少し異なりますが、同様に保障面で大きな差が表れます。

健康保険と国民健康保険の差

公的医療保険として、会社員の方は全国健康保険協会(協会けんぽ)等の健康保険に原則として加入し、フリーランスの方は国民健康保険に加入することになります。この2つの大きな差として「傷病手当金」の有無があります。

傷病手当金は、ケガや病気で働けなくなった場合に、被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。会社員の場合、休業4日目から給与月額の2/3程度を日割りで受け取ることができ、最大で540日間の働けない場合の収入の減少の補填を行うことができます。また、女性の場合には出産の際には出産手当金といい、産前産後98日間の間傷病手当金と同様に給与月額の大体2/3程度を受け取ることができます。

一方でフリーランスの場合、特定の業種の事業主で構成されている組合の独自の国保でなければ、原則として傷病手当金は無く、ケガや病気、出産で休業を余儀なくされたらその分は収入が途絶えてしまいます。このような収入の補填でも大きな差があります。

労働保険の差

雇用保険と労災を合わせて「労働保険」と呼びますが、会社員は労働者ですのでこの2つに原則加入します。しかし、フリーランスは個人事業主と同様の立場になりますので、この2つの保険には加入できません。

雇用保険には失業時に受け取ることができる失業給付や、育児、介護で休業した際の給付金も受け取ることができる機能があり、労災は業務中の災害で治療が必要になったり、休業しなければならない際に給付を受けることができますが、フリーランスの場合には労働者ではありませんのでこれらの保障はありません。

このように、フリーランスと会社員では社会保険に大きな差があることがわかりました。

会社員との格差、どう対策する?

それでは、フリーランスの方はこれらの条件に対し、どのような対策をしていけばよいのでしょうか?

生命保険の活用

遺族年金や障害年金が会社員に比べ少ないフリーランスですが、これらの保障については生命保険の商品を利用することで、公的保障とは条件が異なりますが同様の状態になった際に保障を受けることができます。また、近年では傷病手当金の代わりとなる就業不能保険や所得補償保険といった商品もあります。働けない場合の備えを医療保険の入院給付金で行うという考え方もありますが、近年においては入院も短期化しており、収入の補填に対処しきれない場合も想定できるため、これらの保障の活用を検討するとよいでしょう。

小規模企業共済やiDeCoの活用

公的年金の少ないフリーランスは、老後の資産形成のための制度として「小規模企業共済」という制度を利用することができます。掛け金が全額所得控除となり、税金をお得に老後の資金を積み立てることができる制度で、ご自身で事業を営んでいる、もしくは一定の基準を満たす法人の役員でないと加入することができません。

また、iDeCo(個人型確定拠出年金)も拠出できる掛金の上限額が会社員の方に比べ大幅に拡大されており、厚生年金に加入することができない代わりにそのような制度を利用し会社員の方と比べ乏しい公的保障を補うこができます。その他、国民年金基金等の制度もありますので、目的に合わせて有利な制度を選び、組み合わせて活用していきましょう。

法人設立

フリーランスの立場でも、法人を自身で設立し、役員となることで厚生年金、健康保険に加入することができます。法人設立というと利益が大きくなった際に節税のために設立するというような話を聞きますが、社会保障が拡充されるという面でも有利になります。

役員報酬を増やすと社会保険料が高くなるため、収益が少ない頃にはフリーランス時の所得と同等の役員報酬を設定すると、社会保険料が高額になってしまうこともあります。しかし、役員報酬を調整することで社会保険料も抑えながらも公的保障を手厚くし、会社員に近い社会保障を得ることも可能ですので、収益が出ていなくても十分にメリットを得られる場合もあります。

ただし、フリーランスの頃よりも決算や税務の面で手続きが複雑になることもあるため、それらの費用も含めて検討することが必要です。


ここまで、会社員とフリーランスの社会保障の差と、その不足分をどのように補うことができるかを解説してきました。

普段はなかなか必要性を感じることの無い公的保障ですが、老後を迎える頃や万一があった際には大きな差になり、それを知らずにフリーランスの立場を選ぶ方もいらっしゃいます。

組織に所属せずに自分のペースで仕事を請け負っていく生き方は、時間的な自由とやりがいも得ることができることでしょう。しかし、ご自身やご家族のためにもこのような社会保障の差を認識し、対策しておくことをお勧めします。

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