生きる強さ学んだ「最西端」 今村和彦さん(56)=佐世保市小佐々町= 自由で豊かな時間流れていた すみ住み生活誌 境界で暮らす人々・4

日本本土最西端を示すモニュメントに触れる今村さん=佐世保市、神崎鼻公園

 眼下に広がる青い海。視線の先には平戸などの島々が見え、空気が澄んだ日には五島列島を眺望できる。日本本土の最西端に位置する長崎県佐世保市小佐々町の神崎鼻公園。沈む夕日は美しい景観を織りなし、カメラマンを魅了する。「私たちの日常は、訪れるみなさんにとっては特別なのでしょうね」。神崎自治会で会長を務める今村和彦さん(56)は笑顔で語る。
 今村さんは同公園一帯の神崎地区で生まれ育った。幼少期は道路や水道が整っておらず、海や山が遊び相手だった。夏は海面の魚影に向かって手作りの釣りざおから糸をたらし、冬は野山を駆け回った。「毎日が冒険。自由で豊かな時間が流れていた」と懐かしむ。
 この地区が地理的に注目されたのは1989年。国土地理院が人工衛星を使った測量で神崎鼻を「最西端」と認定した。

神崎鼻公園地図

 旧小佐々町時代にモニュメントを含む公園を整備。91年に最北端の宗谷岬(北海道稚内市)、最東端の納沙布岬(同根室市)、最南端の佐多岬(鹿児島県南大隅町)の各市町と「四極交流盟約書」を締結してアピールした。佐世保市では小佐々支所などで来訪者に「到達証明書」を発行している。
 最西端の暮らしについて、今村さんは「西を向けばたくさんの島々が見える。端にいる感覚はないなあ…」と苦笑いする。
 ただ、郷土の歴史には興味を持っており、神崎鼻について「地元ではなぜか『海賊鼻』とも呼んでいる」と首をかしげる。神崎鼻近くの海岸には洞穴があり、海の先に見える平戸には江戸時代にオランダ商館があった。「外国の貿易船を狙う海賊が待ち伏せした場所だったのではないか」と推測する。
 地元にはカトリック信者も多く、「さまざまな理由で人が住み始めたのかもしれない。地名に『神』の文字が使われており、隠れた歴史がありそう」と想像を膨らませる。
 近隣には好漁場が広がり、直販所では新鮮な魚介類を取りそろえている。中でも、いりこは日本一の生産量を誇り、味と香りが高い評価を受けている。今村さんも「今村水産」を経営。地元の事業者とともに、佐世保を代表する特産品を全国に発信している。
 「何かと不便な場所だけれど、生きるための強さは、この地域の自然から学んできた」。水産県・長崎を“最先端”で支えるプライドがちらりとのぞいた。


© 株式会社長崎新聞社