長打力と選球眼の良さで大活躍 メジャーリーグ1年目、カブスの鈴木誠也

パイレーツ戦の7回、2打席連続本塁打となる3号ソロを放つカブス・鈴木=ピッツバーグ(共同)

 メジャーリーグファンを虜にしているのは大谷翔平(エンゼルス)だけではない。

 今季、プロ野球の広島からシカゴを本拠地にするメジャーリーグのカブスに入団した鈴木誠也が、素晴らしい活躍を見せている。

 4月7日(日本時間8日)に行われた対ブルワーズの開幕戦で記念すべき初安打に2四球を選び勝利に貢献すると、第3戦の同カードで早くも1号本塁打を記録した。

 12日のパイレーツ戦では右中間と左中間に1試合2本塁打、ゲームも鈴木の全打点、全得点で2対1の勝利を収めた。

 この試合はパイレーツに所属する筒香嘉智との対決でも注目を集めたが、鈴木に軍配が上がった。

 まだ、4試合終了時点ながら、打率4割5分5厘はリーグ6位で3本塁打、8打点はトップ。こうなると記録好きのメジャーリーグならではの話題が注目を集める。

 1920年に打点が公式記録になって以降「デビュー4試合で8打点以上と4四球以上」は初だという。27歳のオールドルーキーは、早くもメジャーリーグ記録に名を残したことになる。

 メジャーリーグの労使交渉が長期化した影響で、カブス入団が決まったのは今年3月中旬のこと。契約は推定で5年総額8500万ドル(約105億円)で、日本人野手としては異例の高額だ。

 当初、本命視されていたパドレスに対して、カブスは交渉期限ぎりぎりにトム・リケッツ・オーナーが直々に出馬。最大級の誠意と粘りで獲得に成功した。

 これまで日本人野手の現地評価は、投手に比べてパワー不足が指摘され評価が低かった。

 最近でも、筒香は手元で変化するメジャーリーグ特有の球種に苦しみレイズ、ドジャースで戦力外通告を受け、ようやくパイレーツで認められた。

 同時期に海を渡った秋山翔吾は、重い速球に苦しみ、今季開幕前にレッズから自由契約を言い渡されている。

 「侍ジャパンの4番」という看板を背負って渡米した鈴木にも、当初メジャーリーグ関係者からは半信半疑の声が上がっていた。

 しかもロックアウトの影響でキャンプインが遅れ、オープン戦での調整期間も限られた。すべてが逆風の船出となったが、鈴木に焦りはなかったという。

 「すべてがレベルの違うところで野球をやるのだから、苦しむのは当たり前。まずは自分の打てるゾーンを振る。そこだけはしっかり仕留めたい」

 オープン初戦は「緊張で足が震えた」と2三振だったが、数日後には高く上げていた左脚を“すり足打法”に変えて本塁打。適応力の高さが開幕ダッシュにつながった。

 入団会見では「マイク・トラウト、アイ・ラブ・ユー!」と叫んで笑いを誘った。

 エンゼルスの主砲で、過去MVPに3度輝いたトラウトに憧れてメジャーリーグを目指した。背番号も同じ27番だ。

 広島時代から見守ってきたメジャーリーグ関係者は、鈴木の素晴らしさを「5ツールプレーヤー」と評価する。

 打撃、守備、走塁にパワー、強肩を加えた総合力は、確かに“和製トラウト”を思わせる。

 日本でも知られるようになったOPSは、出塁率と長打力を足して打者を評価するもので、1点を超えたら強打者とされるが、現時点で鈴木のOPSは1.696でリーグ2位。本塁打も打てて、四球も選べる選球眼の良さはこの先も大きな武器となりそうだ。

 「彼のプレーは見ていて楽しいし、とにかく打てる。ここは本当に過酷なリーグで、彼に対して相手は対応してくるだろう。しかし、彼ならそんな状況にもすぐさま対応できるだろう」とカブスのアンディ・グリーン・ベンチコーチは、鈴木の今後に大きな期待を寄せる。

 長丁場のペナントレースで、好不調の波は誰にもやって来る。まだ対戦していないチームには好投手がひしめく。

 しかし、これだけ素晴らしい開幕ダッシュを見せた日本人メジャーリーガーはいない。

 日本国内のテレビ中継は大谷一色だが、カブスの試合も見てみたい。そう思わせるほど、鈴木の打席からは目が離せない。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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